研究課題
基盤研究(B)
糸状菌Chaetomium globosumによって生産されるSch210972は、その分子内にオクタリン(octahydronaphthalene)骨格を有することから、生合成にDiels-Alder反応が関与すると推測されていた。我々はこれまでに、C. globosumにおける遺伝子破壊実験、Aspergillus nidulans異種宿主発現系による生合成系の再構築により、Diels-Alder反応を触媒する酵素遺伝子としてcghAを同定した。cghA存在下における生合成産物は単一の立体異性体であるのに対し、非存在下では非天然型のジアステレオマーが生産されたことから、CghAは立体選択的なDiels-Alder反応を触媒する酵素と予想された。そこで、本研究においてはCghAの触媒機構を実験的に解明することを目指した。タンパク質のX線結晶構造解析により、CghAの触媒する反応の機構を解析できると考えた。はじめに、C. globosumより調製したcDNAをもとに5’-および3’-RACE法によりcghAの全遺伝子配列を決定した。種々検討の結果、コドンを最適化させたcghA合成遺伝子の利用により、大腸菌を宿主とした目的タンパク質の大量生産に成功した。続いて、クロマトグラフィーによる精製、結晶化条件のスクリーニングを経て、CghAタンパク質結晶の獲得に成功した。さらに計算化学を用い、基質、生成物および得られたタンパク質構造を用いたドッキングシミュレーションを行い、活性部位を予測した。予測された活性部位近傍のアミノ酸残基に変異を導入した変異体酵素の変換活性を観測することで、位世界で初めて酵素Diels-Alderaseがどのようにして立体選択的な環化反応を触媒するのかを示すことに成功した。
1: 当初の計画以上に進展している
2-pyridone alkaloid leporins生合成において、これまでに報告の無かった酵素的ペリ環状反応を発見し、反応メカニズムを解明した。全合成研究により、tetrahydropyran骨格形成過程でDiels-Alder反応(DA)とhetero-Diels-Alder反応(HDA)が競合しDA/HDA前駆体であるquinone methideのgeometryの制御が反応制御に重要であることが示されていた。そこで、生合成においては何らかの酵素がalcoholからquinone methideへの脱水反応とその後のHDA反応を触媒すると考えた。我々は、生合成遺伝子クラスターの中にO-methyltransferas(LepI)を見出し、これが反応を触媒していると考えた。そこで、Aspergillus nidulansを異種発現宿主としてleporin生合成経路の再構築し生成物を調べた。その結果、LepIの基質がalcoholであることを確認することができた。alcoholを基質に用いた経時変化の観測により(1)quinone methideからDAとHDA反応(ambimodal反応)が同時に起きていること、(1)DA生成物からHDA生成物へのretro-Claisen rearrangementが起きている可能性が示唆された。(1)と(1)をさらに詳細なin vitro解析により明らかにしたところ、LepIにはSAM結合モチーフ(GXGXG)が保存されていたため、反応がSAM依存的かどうか確認した。その結果、脱水反応とretro-Claisen rearrangementはSAM依存的に進行するもののSAMはメチル基供与体ではなく、SAMのpositive chargeが関与していることが明らかとなった。これらのデータは計算化学によっても強く支持された。
我々はこれまでに分子内Diels-Alder反応を触媒する酵素の解析実績があり、最近ではmyceliothermophin Eの生合成で酵素MycBがDiels-Alder反応を触媒する酵素であることが突き止められた。このMycBは、オクタリン環を構築する点で同様にDiels-Alder反応を触媒する酵素で、互いに約30%の相同性を示す酵素CghA(Sch210972生合成酵素の一つ)、CcsF(cytochlasin生合成酵素の一つ)およびCgbE(chaetoglobosin生合成酵素の一つ)が見出されている。これら酵素の結晶化を試み、X線結晶構造解析を行う。このとき基質アナログを合成しタンパク質との共結晶により反応機構の詳細について解析する。続いて、活性部位近傍のアミノ酸と基質アナログの相互作用および変換反応における遷移状態活性化エネルギーを計算化学で導き出し、上記4つの酵素に関して比較する。これにより環化および立体選択性の普遍性を解明する。また、酵素的なDiels-Alder反応では立体化学としてendo体が生成されるが、非酵素的な環化反応ではexo体も観測される。従って、計算化学で導き出されるendo体およびexo体の活性化エネルギーを比較することで、どのようなメカニズムで高立体選択的な生成物になるのかを解明する。さらに実用化を指向した基質の拡張、すなわち、環化生成物のバリエーションを多くすることが出来るのかを計算化学を用い予測する。上記4種類の酵素の関与を考慮した基質(ジエン-ジエノフィル)の遷移状態のエネルギー計算および基質から生成物へ至るまでのエネルギー準位を包括的にシミレーションした結果を基にして、拡張型基質特異性および高代謝回転数を持った高性能Diels-Alderaseをデザインする。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件) 備考 (2件) 学会・シンポジウム開催 (1件)
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