研究概要 |
神経細胞は、1本の軸索と複数の樹状突起を有し神経極性を形成する。神経極性は、神経細胞の基本的な機能であるシグナルの入出力や統合に重要な役割を果たすにも関わらず、その形成および維持の分子機構は未だよくわかっていない。本研究の目的は、プロテオミクスを用いて神経細胞の極性形成に関わる分子群を網羅的に同定し機能解析を行うことにより、神経極性形成・維持の分子ネットワークを明らかとすることである。 これまでの研究で、我々は高感度二次元電気泳動法を用いて6,197個のタンパク質スポットを解析し、培養海馬神経細胞の極性形成時に発現が上昇する92個のタンパク質を質量分析装置を用いて同定した。また、5,164個のタンパク質スポットを解析し、82個の神経軸索に濃縮するタンパク質を同定している。 本年度は、これらのうち2つの新規タンパク質の機能解析を重点的に行った。そのひとつshootin1に対する抗体を作成し組織分布を調べたところ、shootin1は脳に特異的に発現しその発現量は軸索が形成される生後4日目にピークを迎えた。また、ラット海馬培養神経細胞では、shootin1が極性形成に伴って軸索の成長円錐に強く濃縮することが明らかとなった。さらに、shootin1の異所性の過剰発現は神経極性に乱れを惹き起こし過剰軸索を形成させた。以上の結果から、今回見出したshootin1は極性形成に関与する重要な分子であると結論された(論文投稿中)。もうひとつの新規分子(名前は未定)も脳特異的な組織分布を示し、ラット海馬培養神経細胞では神経細胞の極性形成とともにその発現量が上昇した。また、この分子は成長円錐内でアクチンフィラメントと共局在しており、極性形成に伴った神経突起成長を調節する重要な因子である可能性が示唆された。
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