研究概要 |
ホヤの初期胚における細胞の運命決定のメカニズムを総合的に理解することを目的として以下の研究を行った。 (1)京大・佐藤矩行教授,北大・安住薫博士と協力し,オリゴヌクレオチドマイクロアレイを用いて15の発生段階(2,4,8,16細胞期・・・)のカタユウレイボヤ初期胚における遺伝子発現を受精卵と比較解析した。2〜32細胞期に遺伝子の発現量が増減する遺伝子が数百同定された。従来の研究では,このような発生初期の胚における胚自身の遺伝子発現はあまり報告されていない。オリゴチップのデータにもとづいて,同じ時間的パターンで発現量の変動する遺伝子のクラスタリングも行った。今年度は16〜32細胞期で発現量が増加する遺伝子の中から50の遺伝子のin situハイブリダイゼーション解析を行い,ごく初期の胚において割球特異的に発現する遺伝子を多数確認した。 (2)オリゴチップ解析で同定された遺伝子の中から,割球特異的に発現するZic遺伝子に着目し,レポーター遺伝子を作製して,その割球特異的な転写調節の仕組みを解析した。Zic遺伝子は32細胞期の8個の割球(筋肉,脊索,間充織,神経索の系統)で特異的に発現する。64細胞期にはそれらの細胞の娘細胞に加えて,新たに別の細胞での発現も始まる。のう胚期には中枢神経系の細胞での発現も見られる。この遺伝子の複雑な発現パターンを再現するのに十分な領域は転写開始点の上流わずか658bpであったが,予想に反して転写調節の仕組みは非常に複雑であり,割球ごとにまた発生段階ごとにそれぞれ異なっていることがわかった。この他,初期胚の表皮系統や中枢神経系で発現するRAR遺伝子のエンハンサー解析を行い,それぞれの系統における発現に必要な数百塩基対の領域を同定した。
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