研究概要 |
細胞増殖信号を処理する細胞内分子システムEGF-Ras-MAPKシステムは、細胞増殖信号を処理する細胞内分子システムである。このシステムの内、新規遺伝子発現に至るメインストリーム、すなわちEGFと受容体の結合から、低分子量G蛋白質Rasの活性化、MAPキナーゼカスケードの情報伝達をへてERKが核移行するまでを再構成することを目的とし研究を行った。 複雑な細胞システムを精製分子から完全再構成することは不可能であるので、生細胞から要素を減らしていくこと(トップダウン法)によって再構成を行うことととし、抗生物質であるstreptolysin Oで細胞膜を透過性にしたヒト上皮由来のA431細胞(セミ・インタクト細胞)を調整した。セミ・インタクト化の最適条件を検討した結果、EGFおよびATPの添加によってセミ・インタクト細胞内に生細胞と同様にEGF受容体のリン酸化反応を起こすことが可能になった。受容体のリン酸化は、蛍光標識した抗活性型EGF受容体抗体確認した。次に、HeLa細胞より細胞質を調整し、大腸菌に別途発現・精製したMEK1(MAPKK),CFP-ERK2(MAPK)、およびATP,GTPを添加して、A431セミ・インタクト細胞内に導入したところ、CFPの蛍光は細胞核外のみに認められた。これは、静止細胞状態でERKがMEKと複合体を形成して細胞質に存在することに対応している。同様に調整したセミ・インタクト細胞にあらかじめEGFを与えた場合、核外の蛍光は減少し、核内に強い蛍光が集積した。これはEGF情報によるMEK1,CFP-ERK2のリン酸化により、CFP-ERK2が核内に移動したものと考えられる。以上のように、情報伝達システムのプロトタイプが完成した。
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