研究概要 |
本研究課題の目的は,蛋白質がDNAに結合する過程に注目し,転写調節因子の一つであるCREBがDNAのCRE配列を認識し,結合する機構を理論的に明らかにすることである.更に,CRE配列に結合した後CREBがどの様な構造変化を起こしているのかについても知見を得る. 【モデル】 計算に使用したモデルは,CREBがCRE配列に結合した状態の3次元構造(PDB登録名:1DH3)データを用いた.この結晶データにはCREBとCREとの結合領域に水和したMg2+が存在している.このCREB,CRE配列(21塩基対),金属イオンの周りに水分子を配置した構造を元にして,次の3点について計算を行った. 【結果】 1)CREBはCRE配列以外のDNAに結合するのか? 一般的に,CREBはDNAのどの様な配列にも結合すると言われている.CREBは特定のCRE配列を認識して結合するのか,そうではなくてDNA自体を認識してどんな配列にも結合するのかについてエネルギー面から検討した.その結果,CREBはDNAのCRE配列以外の場所にも結合し得ることが分かった. 2)CRE配列以外にも結合できるなら,CREBはDNA上をスライドできるのか? CREBがDNA上をCRE配列方向へスライディングする可能性について,分子動力学計算により経時変化を観測した.CREBをCRE配列以外の場所に結合させて計算した結果,10ns程度の時間では有意な動きは観察できなかった. 3)CREBのCRE配列結合後の動的構造変化 分子動力学による計算結果,10ns程度の時間経過ではCREBとDNAには有意な動きは観測できなかった. 以上のように,CREBがCRE配列を特異的に認識する様子は観測できなかった.これらの結果から,計算に考慮している観測時間が10nsのオーダーでは短過ぎることや,今回考慮しなかったピストンとの相互作用など他の要因が欠如していることが考えられる.現在,観測時間を100nsオーダー以上にするため計算を継続中である.
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