研究概要 |
本研究では,既知情報に依存しない非経験的なタンパク質立体構造の高速シミュレーション技術を開発することを目的に,タンパク質立体構造の動的側面(フォールディング)と静的側面(安定構造)を原子レベルの相互作用から詳細に解析した。その結果,以下の研究成果が得られた。 1.アミノ酸側鎖を分離して取り扱う方法の開発によって,20種類のアミノ酸の真空中のSAAP力場パラメータをほぼ完成することができた。溶媒中のパラメータの作成についても,完成の目処が立った。 2.水中の単一アミノ酸ポテンシャルは,タンパク質中におけるそのアミノ酸の統計的な構造に一致していることを突き止めた。すなわち,タンパク質立体構造においてはアミノ酸のコンホメーションはほぼランダムである(すなわち,ボルツマン分布している)ことがわかった。 3.SAAP力場を用いたアラニン10量体の分子シミュレーションにおいて,水中ではαヘリックスやπヘリックスが局所安定構造として得られ,エーテル中(疎水的環境)では3_<10>ヘリックスが局所安定構造として得られた。この結果は実験結果をよく再現している。 4.リボヌクレアーゼA,リゾチーム,ホスホリパーゼA_2,インスリンの4つのタンパク質において,S…O相互作用がタンパク質の基質認識やタンパク質の進化(系統樹)と関連をもつことを明らかにした。 本研究ではさらに,上記の理論的な考察を検証するために,新規セレン試剤を用いてタンパク質のフォールディング実験も行い,リボヌクレアーゼAのフィールディング初期の中間体においては,SS結合の形成がほぼランダムに起きていること,すなわち安定な立体構造が存在しないことを確認した。
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