複数のターゲットへ眼を向ける運動を交互に行なうことを行動ルールとして、試行錯誤で正しいルールを見出す際に、どのような神経機構が関与するかを解明する目的で、眼球運動のルールシフト課題をサルに訓練した。この課題では、スクリーン中央の固視点を一定時間固視すると周辺に4つの点が表示された。更に遅延期間の後に固視点が消えると、これをゴー信号として一つの点へサッカードを行った。4つの点のうち2つを選びセットとし、試行ごとに交互に正解のターゲットとなるようにした。4つのセットのルールを用意し、一定試行数繰り返すと指示なく別のルールに変更した。この課題遂行中に、前頭前野からの入力を受けている補足眼野から細胞活動を記録し解析した。サッカードに関連する細胞活動以外に、行なっている2つのサッカードのペア、ルールに選択的な細胞活動を示す補足眼野の細胞が見出された。さらに、特定のルールセットの特定のサッカードで活動を示す細胞も存在した。このような細胞活以外に、その試行で正しくターゲットにサッカードしたか、否かで活動の異なる細胞が見出された。またエラーした時に増える細胞活動も、どのルールセットで行なっているときのエラーかという状況に依存したエラー関連活動が見出された。このような細胞活動から、補足眼野は、眼球運動のルールに従った眼球運動を行なう実行に関与する以外に、その試行の結果を反映したモニタリングに関連した活動もあり、ルールの内的な更新過程に大切な機能を果たしている可能性が示唆された。また別の課題で複数のルールで行動を変更させる運動課題を遂行中に、運動前野、前頭前野の細胞活動を記録したところ、ルールや動作には依存しないが、課題の目標や、視覚像の運動情報を反映する細胞活動が見出された。ルール選択的な細胞活動とルールに非依存的な高次の行動制御に関わる細胞活動は、どちらも相補的であり重要な行動制御の側面を表現している事が明らかになった。
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