研究概要 |
本研究は目標到達運動が本質的に持つ座標系依存性に独自の座標系分析法を適用し、小脳内部モデルにおける情報変換のアルゴリズムを座標系という観点から抽出する点に特色がある。さらに、小脳皮質の2つの運動関連領域の内部モデルに共通する情報構造から、広範な高次脳機能に重要な役割を果たす小脳内部モデルの基本動作原理を推定する戦略も独創的である。小脳内部モデルは基本的に前向き情報変換なので、入出力でニューロン活動の座標系を押さえれば情報処理のアルゴリズムを座標変換として推定できる。実験は、一頭のニホンザルで、手首運動課題実行時の小脳皮質プルキンエ細胞および苔状線維活動の記録を進め、小脳皮質の入出力間での情報変換様式の解明に取り組んだ。昨年度の研究よりニューロン記録の範囲を広げ、小脳の第IV, V, VI小葉から記録を行った。この領域の中で、M1から入力を受ける内側の小脳皮質の苔状線維は筋肉座標系で情報をコードしているが、外側のPMv領域では空間座標系で運動指令をコードしており、二つの領域では大脳からの入力情報が明瞭に異なることが明らかになった。一方、プルキンエ細胞の活動は、昨年報告した空間座標系タイプのみならず、筋肉座標系タイプも存在することが明らかになったが、二つのタイプは先に区別された内側・外側の領域で混在する傾向にあり、分布領域との対応関係は単純でないことが示唆された。従って、苔状線維からプルキンエ細胞への情報変換は複数の変換様式が共存する可能性と、プルキンエ細胞では情報変換が完了していない可能性の2つの可能性が考えられる。今後、どちらの可能性が実際に起こっているのかを決定するために、プルキンエ細胞の出力を受ける小脳核でのニューロン記録を行う必要がある。
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