概日リズム障害の発症機構の詳細な解明と治療法や治療薬の開発には、(1)概日時計中枢と末梢組織の計時情報の細胞レベルでの簡便な計測系、及び、(2)ヒトの概日リズム障害の有用な疾患モデルの利用が必須であると考えられる。哺乳類の時計遺伝子Per1の転写翻訳産物量は、マウスSCNで明暗及び恒暗条件下、明期で高く暗期に低い自律的な日周変動を示した。また、幾つかの末梢組織(網膜、肝臓、腎臓、筋肉)においてもその発現は約6-12時間遅れた位相で振動した。これらの事実は、Per1の発現リズムが概日リズム形成及びその光同調機構と強い関連を有することを示す。実際、Per1を強力なプロモータにより強制発現させたPer1形質導入体の行動及び体温リズム周期は、長周期型または無周期型になる上に光同調能の失調が顕著であり、非24時間型リズム症候群の疾患モデルとして使用できると考えられた。そして、このPer1強制発現体の示す概日リズム障害は、SCN及び末梢での、Per1及びPer2の転写日周振動の著しい減衰に起因することを明らかにした。 そこで、Per1::lucとPer2::luc融合遺伝子をマウス繊維芽細胞NIH3T3に形質転換し、Per1とPer2発現リズム転写制御機構でのPerタンパク質の機能をそれぞれ解析した。フォルスコリン、ヂキサメタゾン、フォルボールエステル刺激により、Per1::luc及びPer2::lucいずれの安定導入細胞においても、ルシフェラーゼ発現概日振動を誘導できた。これらの試薬によるPer1の発現概日振動の誘導には、プロモータ上の5つのE box配列が機能した。一方、その一過的誘導には、4つのCre配列のうち、第3のCreだけが必要であった。Per2はこれらの試薬により一過的に誘導はされないものの、発現概日リズムは示し、それにはPer2プロモータ上に存在するE boxに似た配列が必要であった。次に、Per1とPer2タンパク質のPer1及びPer2プロモータに対する作用を調べたところ、両タンパク質は、Per1プロモータ活性には影響を与えないが、Per2プロモータの転写を活性化した。この転写活性化には、Per2プロモータ転写開始点近傍の配列が必須であった。即ち、Per1導入体が示すリズム異常の表現型の要因として、Per1過剰発現によるPer2の転写制御異常が考えられる。
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