研究課題
特定領域研究
記憶・学習に深く関与する海馬では、イオン透過型と代謝型という複数種のグルタミン酸受容体を介してシナプス伝達が行われる。シナプス伝達効率の長期増強(LTP)ではイオン透過型受容体のひとつであるNMDA受容体(NMDAR)が重要な役割を果たすことが知られている一方、代謝型(mGluR)の役割には未だ不明な点が多い。われわれはmGluRの活性化は、可塑性の誘導閾値を下げることにより、LTPを誘導し易くする一方で、NMDARのチロシンリン酸化を亢進することを見出した。今までの研究成果により、可塑性の誘導閾値調節機能は記憶・学習行動とよく相関することが示唆されている。そこで可塑性誘導閾値調節におけるmGluRの役割を解析し、その下流因子のひとつとしてNMDARリン酸化の役割を掘り下げて検討した。また遺伝子改変マウスを用いた行動解析も行なうことにより、神経可塑性の誘導閾値調節の分子機構およびその生理的意義を、分子から個体レベルまで一貫して解明することを目指した。本年度の研究実績では、mGluRアゴニストDHPGを海馬スライスに投与すると長期抑圧現象が見られたが、その30分後に弱い刺激(プライミング刺激)を与えると、むしろLTPが誘導し易くなっていた。さらにDHPG処理により海馬スライスではp42MAPKとp38MAPKとが異なる時間経過で活性化する事が示され、またNMDARのサブユニットのひとつであるNR2Bのリン酸化が亢進していることも生化学的手法を用いて示された。さらに、NR2Bのリン酸化を阻止するような遺伝子改変マウスの解析を行った。このマウスでは情動に依存する学習行動の傷害が観察され、扁桃体におけるLTPの誘導が減弱していることが見出された。またパターン刺激によるLTPの誘導閾値調節機能が変化している傾向が見られた。これらの知見から、mGluR刺激の下流にNMDARのリン酸化があることが示され、可塑性誘導閾値調節機構の誘導にはmGluR刺激が、そして発現機構にはNMDARの機能修飾が関与している可能性が示唆された。
すべて 2005
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Mol.Cell.Biol (印刷中)