研究概要 |
本年度は,動機づけ要因が前頭連合野の神経伝達物質の変化にどのように関わるのかを慢性実験で明らかにする試みを行うとともに,急性実験においてドーパミンとグルタミン酸の相互作用のメカニズムを解明する試みを行った。 「慢性実験」 (1)サルがワーキングメモリー課題を行っているときに、サルの好みでない報酬(J1)と好みの報酬(J2)を用いてマイクロダイアリシス実験を行ったところ、安静時と比べて前頭連合野のドーパミン濃度はJ1とJ2条件下ともに増加する傾向が見られ、J1よりJ2条件下でその増加はやや多い傾向も見られた。(2)課題と関係なく、投与時期も予測出来ない条件下でサルにJ1,J2を与えた場合もドーパミン濃度は増加する傾向が見られ、J1よりJ2条件下でその増加はやや多い傾向も見られた。(3)前頭連合野内のどの部位においても,ドーパミン濃度とグルタミン酸濃度の間に相互抑制関係が見られた。 「急性実験」 (1)無麻酔安静拘束下で「リバースダイアリシス法」(マイクロダイアリシスプローブを用いた薬物投与法)とダイアリシスによる神経伝達物質測定を併用し、神経伝達物質間の相互作用を支える神経回路を調べた。(2)ドーパミンの投与によりグルタミン酸量の有意な減少が観測され,さらにD1とD2アゴニストの同時投与により、ドーパミンそのものの投与と同様のグルタミン酸の有意な減少が観察された。(3)ドーパミンD1およびD2アゴニストの単独投与により、D1では投与量依存性のゆっくりとしたグルタミン酸レベルの増加が、D2投与では減少が観測された。(4)以上の結果から、D1受容体は前頭連合野のターゲット細胞あるいは周辺グリア細胞上にあってグルタミン酸放出を増加させる方向に、D2受容体はグルタミン酸神経終末にあってグルタミン酸の神経終末からの放出を抑制しているのではないかと考えられる。
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