研究概要 |
感染巣への免疫細胞の集積や分泌応答は、感染初期の重要な宿主応答と位置付けられ、免疫細胞活性化機構の理解によるこれらの細胞応答の人為的な操作は、感染症や炎症性疾患の制御に有効な戦略となるものと考えられる。細胞膜リン脂質の一種であるホスファチジルイノシトールのイノシトール環が、その3、4、5位水酸基に可逆的なリン酸化を受ける結果、8種類のイノシトールリン脂質が生成される。これらは、脂質性シグナル分子として個々に固有の機能を持ち、多様な応答を制御する。本研究では、我々が最近作製した複数のイノシトールリン脂質代謝酵素欠損マウスやイノシトールリン脂質可視化マウスを用いて、食細胞の遊走制御機構とマスト細胞活性化機構を、イノシトールリン脂質代謝の観点から明らかにすることを目的とし、研究を進めた。 その結果、数多存在するホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸代謝酵素の中から、好中球の遊走を制御する各々PI(3,4,5)P_35'-産生酵素と分解酵素を見出した。また、ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸の主要な生成酵素である、I型ホスファチジルイノシトールリン酸キナーゼが、マスト細胞でのlipid raftへのFcε受容体の局在、脱顆粒、サイトカイン産生、全身性および局所でのアナフィラキシー反応の制御因子であることを見出した。 このように、イノシトールリン脂質代謝が初期感染応答やアレルギー反応、炎症反応を制御する機構の一端を、マウスでの遺伝学的解析によって本研究で明らかにすることができた。イノシトールリン脂質代謝系は、宿主応答の活性化と鎮静化の人為的制御の作用点として有望であると考えられる。
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