研究概要 |
バンコマイシン耐性E.faeeium、 E. avium VREから分離された3種のpHTプラスミド(α;65.9 kbp,β;63.7 kbp,γ;6.5kbp)は性フェロモン非依存性高頻度接合伝達性pMG1類似プラスミドである。それぞれVanA型バンコマイシン耐性トランスポゾンTn1546を持つ。このうちpHTβがプロトタイプのプラスミドであり、pHTαとpHTγはそれぞれIS232(2.2kbp)とgroup II intron(2.8 kbp)がpHTβに挿入したプラスミドである。pHTβの全塩基配列を決定した、Tn1546(10,851 bp)を除く領域は52,890 bpであった。この領域には同一方向に転写される61個のORFが存在した22個のORFは疸ソ菌の病原性発現に必須の夾快膜形成プラスミドpXO2(96.2 kbp)に存在する機能不明なORFと相同性を示した。 プラスミドの接合伝達開始領域oriTを同定した。oriTはORF28とORF29の間の192 bpの領域であり、oriTは新規のグループに分類された。oriT領域の下流に存在するORF 31は506個のアミノ酸をコードする遺伝子で、遺伝子解析からORF31はpHTプラスミドのrelaxaselnickase遺伝子(traI)であると推測した。この予想されるTraI蛋白は報告されている他のrelaxase, nickase蛋白とは相同性を示さず、新規のファミリーMOBMGに分類された。 pHTプラスミドの高頻度接合伝達機構及び病原性との関係を遺伝学的に解析する目的でTn917-lacを用いたトランスポゾン挿入変異プラスミドを分離し解析した。その結果、pHT上の接合伝達に関与する3つのTra領域(region L ORF3〜48,region II ; ORF56,57,region III ; ORF61)を同定した。一方、pHTβを保持するE. faecalis FA2-2株は自己凝集能を持つことを見出した。Tra region IIのORF56 (187 a. a.)内にトランスポゾンが挿入したpHTβ::Tn917-lac変異プラスミドは伝達性と共にこの凝集能を失っていた。またクローン化したORF56はこの変異を相補したことからORF56はプラスミドの伝達と凝集に関与する新たな遺伝子であることが示され、traBとした。traBのみを欠失させたpHTβラスミドは、細菌表面蛋白をコードすると推定されるORF10(1,209 a.a.)を含むTra region Iの上流域の転写活性が野生型に比べ低下していた。この転写活性の低下はtraBクローンによりin transに相補された。これらの結果は、traがプラスミドの接合伝達、菌の凝集に関与すると考えられるTra regio Iの遺伝子群を転写レベルで正に調節していることを示している。
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