研究概要 |
これまでに、病原体構成成分を認識するToll-like receptor(TLR)ファミリーがマクロファージの異常活性化による慢性腸炎の発症のトリガーとなることを明らかにした。さらに、正常マウスの大腸粘膜固有層マクロファージは、TLR刺激依存性の炎症性サイトカインの産生を認めないが、慢性腸炎を発症するIL-10ノックアウトマウス由来の細胞は有意に産生することを見出した。そこで正常マウスとIL-10ノックアウトマウスの大腸粘膜固有層マクロファージ間で遣伝子発現の差をDNAマイクロアレイで解析した。その結果、IκBファミリーに属するBcl-3,IκBNSが正常大腸粘膜固有層マクロファージに特異的に発現していることを見出した。Bcl-3,IκBNSをマクロファージに発現させると、LPS刺激依存性のTNF-α,IL-6産生がそれぞれ特異的に減少していた。そこで、IκBNSノックアウトマウスを作製したところ、マクロファージ、樹状細胞では、TLR刺激により誘導される遺伝子の中で、IL-6などのNF-κB依存性に3時間以降に遅れて誘導されてくる遺伝子の発現が有意に上昇していた。またTLR刺激によるNF-κBの活性が遷延化し、刺激後3時間でもまだNF-κBの活性が残存していた。さらに個体レベルでも、LPS投与によるエンドトキシンショックに対する感受性が高くなり、またDSS投与による腸管炎症に対する感受性も高くなっていた。このように、IκBNSノックアウトマウスでは、NF-κBの活性の遷延化、あるサブセットのNF-κB標的遺伝子の過剰発現、そして個体レベルでは炎症反応に対する感受性の充進が見られた。この結果から、IκBNSが自然免疫系の活性をNF-κBの活性制御により負に制御し、個体レベルで炎症反応を抑制していることが明らかになった。
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