研究概要 |
咽頭炎,扁桃炎や肺炎など上・下気道炎の起因菌であるA群レンサ球菌(group A streptococci:GAS)の治療法は抗生剤による除菌法以外には確立されておらず,効果的な治療法の開発が急務とされている.高組織侵襲性GASの血清型はM3株の分離比率が高いとの報告があり,これまでに同血清型菌において発現しているフィブロネクチン(Fn)結合タンパクFbaBが付着素,侵入素として重要であることを明らかにしてきた.そこで,FbaBタンパクのin vitroにおける組織侵入機構の解析と,in vivoにおける免疫原性を中心に解析を進めた. FbaBをN末端側から,Fn結合能を有するProtein F1と相同性を示すドメイン(D)1,機能未知のD2,Protein F2と相同性を有するD3,F1およびF2のFn結合領域と相同性を示すD4に区分した.各領域の組織侵入に及ぼす影響を検索するために,それぞれの領域の組換え体(rFbaB)を作製した.はじめにBiacoreを用いて領域別のFn結合能を解析した.Biacoreの測定結果を解析したところ,D4が主たるFn結合領域であることが明らかとなった.また,D3にもFn結合能が認められた.次に,それぞれの組換え体をGASと同サイズの蛍光ビーズに共有結合させ,Fn存在下と非存在下での上皮細胞への付着侵入をそれぞれ共焦点レーザー蛍光顕微鏡により観察した.その結果,D4固相化ビーズはFn存在下で細胞付着性を示したが,Fn非存在下では付着しなかった.一方,rFbaB(全長)固相化ビーズではFnの有無に関わらず,細胞への付着侵入性を発揮した.このことから,FbaBには,D4を介したFn依存性細胞付着機構とD4以外の領域を介したFn非依存性細胞付着機構が備わっていることが示唆された.各領域のrFbaBをマウスに免疫後,致死量のGASを腹腔内に感染させて生存率を算出した.皮下免疫実験においては,非免疫コントロール群に比して,全ての免疫群で血清中のFbaB特異的抗体価が上昇した.GAS感染後のマウス生存率は,D3,全長,D1免疫群の順で高く,コントロール群に対して有意な差を示した.
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