研究概要 |
黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素(ET)は、新生児、幼児の伝染性膿痂疹患部皮膚に水疱形成、剥脱を引き起こす原因毒素である。ETファミリーは現在血清学的違いによりETA、ETB、ETDの3種類が報告され、Amagai、Stanley、Yamaguchiらの共同研究により、ETファミリーの標的蛋白が表皮細胞間の接着を担うデスモグレイン1(Dsg1)であることが証明された。また同じブドウ球菌属に属するStaphylococcus hyicusが同様の毒素を産生する事が知られており、血清学的に異なる4種類の表皮剥脱毒素ExhA,ExhB,ExhC,ExhDを産生する。この毒素を産生するS.hyicusは幼弱ブタに滲出性皮膚炎を惹起する。本年、私どもはブタのDsg1のクローニングに成功し、バキュロウイルスで発現させたsDsg1を用いてExhの切断活性を調べた所、ExhA〜ExhDがブタDsg1を選択的に切断する事を明らかにした。また精製したExhA〜ExhDを子豚の皮下に接種すると、表皮の痂皮化、剥脱を誘導する事を明らかにした。またExhA,ExhB,ExhDについて1〜2Aの分解能で結晶構造を解いた。これらのExhの構造は既に構造が明らかにされているETに類似していることが明らかになった。また昨年度に大腸菌で発現に成功したヒトDsg1の細胞外ドメインとセリンプロテアーゼ活性基のセリンをアラニンに置換して不活化したETAを用いた共結晶化を試みた。その結果、プロペラ状の針様結晶が得られたが、結晶の増大が見られず、X線を用いた解析には至らなかった。このため、再度、ヒトDsg1の大量精製法について検討し硫安沈殿を行ったヒトDsg1を共結晶化に用いる方法を検討した。また大腸菌で作成したヒトDsg1が温度に感受性である事から、トランスジェニックカイコを用いたヒトDsg1の大量発現を目指して、その予備実験としてカイコ絹糸腺でのヒトDsg1の一過性の発現を試みた。その結果、カイコ絹糸腺でヒトDsg1の発現が認められた。またETとヒトDsg1の会合状態を調べるために、ETAを安定同位体標識し、大腸菌で発現精製したヒトDsg1とともにNMR解析することを試みた。
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