研究概要 |
目的・方法:プリオン病では正常型プリオン蛋白質PrPCがcavolae-like domain(CLD)で未知のspecies-specific molecular chaperone Protein Xを介して異常型プリオン蛋白質PrPSCに構造変換される。本研究ではPrPSCによる神経細胞死誘導機序を解明するため、PrPC異常蓄積がCLDシグナル伝達系に対して障壁を形成し、下流遺伝子群発現異常を惹起するとの仮説を考案し、検証するため(1)平成16年度はPrP遺伝子恒常的高発現培養細胞の遺伝子発現プロフィールをcDNA microarrayで解析し、(2)平成17年度はヒト神経細胞のプロテオーム解析(2D-PAGE, protein overlay, mass Spectrometry, protein microarray)によりProtein X候補を探索した。結果:(1)PrPC恒常的高発現により神経変性関連遺伝子SCA12責任遺伝子PPP2R2BとPCDターゲット遺伝子CDR34の発現上昇を認めた。(2)培養ヒト神経細胞におけるPrPC結合蛋白質として14-3-3,アストロサイトの14-3-3結合蛋白質としてvimentinを同定した。14-3-3はisoform- or cell type-nonspecific, phosphorylation-independentにHsp60と結合した。Protein microarray解析により14-3-3結合蛋白質としてEAP30,DDX54,STACを同定した。 考察・結論:(1)プリオン蛋白質蓄積が遺伝子発現制御異常を介して神経細胞死を惹起し得る。(2)ヒト中枢神経系で生理的条件下14-3-3,PrPC,Hsp60はtrimolecular complexを形成し、プリオン病脳ではPrPCがPrPSCに構造変換・凝集される過程で、14-3-3はcomplexから離脱し、degenerating neuronから髄液中に放出される。網羅的トランスクリムトーム・プロテオーム解析により、ヒト培養細胞におけるPrPC誘導遺伝子や結合蛋白質を同定し得た。これらはクロイツフェルトヤコブ病の診断キットや創薬ターゲットとなりうる。
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