研究概要 |
(1)Nrf2制御系とAhR制御系の機能的相互作用の検討 Nrf2により制御されている遺伝子群が,化学物質による膀胱癌の発生防御に果たす役割を明らかにするために,nrf2欠損マウスに対して,N-nitrosobutyl(4-hydroxybutyl)amine(BBN)を投与し,発癌実験を行った.nrf2欠損マウスでは,浸潤癌の発生率が高く,オルティプラッツによる発癌抑制効果も認められなかった.以上により,膀胱の化学発癌の防御には,Nrf2により制御されている遺伝子群の機能が必須であることが確認された.また,AhRにより制御されている遺伝子群が,化学発癌の発生を促進するかどうかを明らかにするために,AhRの抑制機能を有するAhRRの遺伝子欠損マウスを用いて,AhR機能の亢進状態における化学発癌のおこりやすさを検討した.その結果,当初の予想に反して,AhRR遺伝子欠損マウスでは,ベンツピレンの皮下投与により,皮下腫瘍の発生が,むしろ抑制されるという傾向が得られた.面白いことに,この抑制傾向は,AhRR::Nrf22重欠損マウスでは解除されることから,Nrf2の制御下の遺伝子群の働きによるものと推測される.すなわち,AhR制御下の遺伝子群の機能亢進に伴い,ベンツピレンの酸化が促進され,それにより,Nrf2制御下の遺伝子群の誘導も亢進し,結果的にベンツピレンの代謝が促進されて,癌の発生が抑制されたものと考えられる. (2)Nrf2制御系とDNA修復酵素の機能的相互作用の検討 Nrf2制御下の遺伝子群の作用は,DNAの酸化障害を予防するために重要であると予想され,Ogg1,MutYなどのDNA修復酵素は,酸化障害を受けた塩基の除去修復に必須である.そこで,Nrf2::Ogg1あるいはNrf2::MutY2重欠損マウスでは,DNAの酸化障害が著しく増悪するものと予想し,それらのマウスに対して酸化剤KBrO_3を経口投与しつつ,ベンツピレンの皮下投与を行い発癌の程度を検討した.その結果,野生型nrf2 alleleの有無と癌発生の相関は認められたものの,残念ながら,これまでに野生型とOgg1欠損マウス,MutY欠損マウスの間,Nrf2欠損マウスとNrf2::Ogg1あるいはNrf2::MutY2重欠損マウスの間に有意な差は認められていない.この原因としては,KBrO_3の皮膚局所への移行が不十分で,Ogg1やMutYの貢献が十分に検出できなかったためと考えられる.
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