研究概要 |
細胞がん化機構および発がん防御機構を解明するためには、より早期の細胞がん化状態における遺伝子発現状態、遺伝子発現制御機構の異変を解析する必要がある。この過程を解析するために腫瘍マーカー陽性細胞を用いることは非常に有用である。ラットに肝前がん病変を誘発させ、腫瘍マーカーであるラット胎盤型グルタチオントランスフェラーゼ(glutathione transferase placental form, GSTP1-1)陽性細胞におけるエピジェネティクス制御因子の発現変化とDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現の網羅的解析を試みた。肝化学発がん過程にけるDNAメチル化酵素(Dnmt1,Dnmt2,Dnmt3-a,Dnmt3-b)のmRNA発現について検討した。その結果、Dnmt3-bの発現変化は観察されなかったが、Dnmt1,Dnmt2は若干発現が上昇し、Dnmt3-aは約20倍の発現上昇が検出された。また、ヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase, HAT)であるP300,CBPの肝前がん病変における発現減少が明らかとなった。一方、調べたHATの中でMOZ(monocytic leukemia zinc finger protein)のみ発現上昇が検出された。MOZ複合体部分精製の結果、MOZは2MDa以上の複合体に含まれることが示された。この発現上昇したMOZは異物代謝系第2相酵素群発現誘導に関与する転写因子Nrf2/MafKの転写共役因子として機能し、GSTP1-1の発現誘導に関与する可能性が示唆された。DNAマイクロアレイ解析により、代謝に関与する遺伝子の約8%が前がん病変において発現上昇しており、2%が減少していることが示された。これまでに知られている代謝酵素以外にGata-6を含む転写因子などの発現上昇が明らかとなった。
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