BAF遺伝子を完全に欠失させたショウジョウバエの変異体(BAF null変異体)を用い、第1幼虫および第2幼虫の成虫原基と中枢神経組織の発生を詳細に解析した。神経組織では高頻度に核構造の異常が観察されている。神経組織においてどのような細胞集団で核構造の異常が起こっているかを明らかにするため、細胞分裂能を失った分化した神経細胞に対する特異的な抗体を用い免疫染色を行った。その結果分裂能を有する神経芽細胞でBAFが特異的に消失し核構造の異常が起こっていることが明らかになった。このような神経芽細胞ではこれまでのところTUNEL反応を用いてアポトーシスは検出されていない。一方、増殖細胞からなる成虫原基組織においてはTUNEL反応を用いアポトーシスが高頻度で起こっていることを確認している。今回は神経組織および成虫原基組織をショウジョウバエのエフェクターカスパーゼであるDrlCEの活性化型に対する特異的抗体を用いて免疫染色しアポトーシスの状態をさらに観察した。その結果、TUNEL反応と同様に、成虫原基組織では活性化型DrlCEの強いシグナルが容易に検出できたが、神経組織では活性化型DrlCEシグナルは検出できなかった。また成虫原基組織においては、アポトーシスが誘導されていない(活性化型DrlCEが検出されない)細胞の核構造を詳細に観察すると、神経細胞に見られたBAFの消失に伴う核のコンボリューションの形態が容易に観察できた。以上からBAFタンパク質の消失がアポトーシスに見られる核構造の変化と密接に関係していることが推測される。
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