加齢に伴う変異ミトコンドリアDNAの蓄積およびミトコンドリアの呼吸活性の低下が細胞老化や死を規定している可能性が考えられている。最近、細胞内において機能障害を受けたミトコンドリアを特異的に認識し、消去する仕組みが存在すること、そしてこの仕組みが加齢と共にDown Regulationされていることを見出した。これらのことは、加齢に伴うミトコンドリア機能抑制がプログラムされているため、細胞内に活性酸素などによる細胞障害が蓄積し、最終的に細胞死を誘導している可能性を示唆している。一方、癌細胞は変異ミトコンドリアDNAが蓄積しているにもかかわらず、致死レベルまでのミトコンドリアの呼吸活性の低下を引き起こさず、細胞死を免れている。予備的な研究成果において、癌細胞がこの障害ミトコンドリアの消去機構を再獲得することにより細胞老化・死を回避している可能性が推測された。従って、癌細胞における障害ミトコンドリアの消去機構を抑制することにより、新概念に基づく癌化防御法の確立が期待できる。 (結果) 1.ミトコンドリアSeptinによる障害ミトコンドリア認識機構 HeLa細胞を紫外線照射によりミトコンドリアダメージを与え、M-septinのミトコンドリア移行について免疫組織染色法を用いて解析したところ、細胞の静止時において、細胞質にdiffuseに分布していたM-septinが、紫外線照射後速やかにミトコンドリア移行することが、観察された。また、M-septinが局在したミトコンドリアが本当にダメージを受けているかは抗ピリミジンダイマー抗体で確認した。これらの結果よりM-septinは何らかのメカニズムにより傷害ミトコンドリアを認識することが示された。 2.ミトコンドリアSeptinによる障害ミトコンドリア封入体形成機構 1と同様な方法を用いてM-septinとミトコンドリアとの関係を解析したところ、M-septinが傷害ミトコンドリアを取り囲むように封入体を形成するのが観察された。セプチンはポリマーを形成して、封入体を形成する活性をもつので、M-septinは傷害ミトコンドリア特異的な封入体を形成するセプチンであることが示された。
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