研究概要 |
DNA-PKは放射線照射によって生じたDNA二重鎖切断の「センサー」として、修復や情報伝達に極めて重要な役割を担うと予想されているが、「真の基質」と「リン酸化の意義」は長らく不明である。私は近年、DNA二重鎖切断の結合を触媒する酵素DNA ligase IVの調節分子XRCC4をDNA-PKの真の基質の第一例として示し、平成13〜15年度の研究により、リン酸化部位の同定、リン酸化状態特異的抗体の作製、リン酸化部位変異体発現細胞株の樹立などを進めてきた。In vitroでDNA-PKがXRCC4を直接リン酸化しうる部位は3ケ所見出されたたが、そのうち2ケ所がin situ、即ち、放射線照射後の細胞内で線量および時間依存的にリン酸化された。これら2ケ所のリン酸化部位を欠損するXRCC4はDNA ligase IVとの結合は正常であるが、これを発現する細胞は正常XRCC4発現細胞に比して放射線高感受性であり、増殖速度も遅い。更に、放射線照射後のG2/Mチェックポイントの増強/遷延が認められ、DNA損傷の修復に異常があることが示唆された。これらの結果を総合すると、DNA-PKによるXRCC4のこの2ケ所の部位のリン酸化はDNA修復の精度、効率を保証するために重要な役割を担っている可能性が濃厚と考えられる。この成果を利用した新しい放射線感受性、癌罹患性予測法や放射線増感剤・抗癌剤の開発の可能性が考えられ、現在検討を始めている。 また、DNA-PKによるp53のリン酸化の再検討を行った結果、既に知られている部位(Ser15,Ser37)に加えて、新しい部位2ケ所(Ser9,Ser46)を見出した。DNA-PKおよび類似分子ATM、ATR、FRAP、SMG5などは専らSQまたはTQをリン酸化するというのがほぼ定説となってきた。しかし、XRCC4とp53のリン酸化部位同定の結果、少なくともDNA-PKに関してはこれらに限定されないことが明らかになり、また、新しい配列指向性が浮かび上がってきた。今後の新規基質の探索やそのリン酸化部位の同定に有用な情報となることが期待される。
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