研究概要 |
マトリプターゼは膜結合型のセリンプロテアーゼで、癌の浸潤/転移に深く関与する。私達はマトリプターゼに存在する糖鎖構造を糖転移酵素GnT-Vの遺伝子導入により改変させると、マトリプターゼの分解が著しく抑制されることを見い出した(JBC277,16960-16967,2002)。本研究では、精製したマトリプターゼを用いて、糖鎖修飾によるマトリプターゼ安定性の分子機構を解明し、マトリプターゼに存在する4カ所のN型糖鎖の中で772番目のAsnに存在する糖鎖がプロテアーゼに対する分解抑制に最も重要であることを見いだした。すなわち、GnT-Vを過剰発現した胃癌細胞からマトリプターゼを精製すると、2002年の論文と同様GnT-Vによって糖鎖修飾をうけたマトリプターゼはトリプシン処理に対して、分解耐性となった。さらにsite directed mutagenesis法によりマトリプターゼの糖鎖のmutantを作製し、GnT-Vを高発現するCOS細胞に発現させトリプシン処理したところ、Asn772番目の糖鎖欠損株では容易に分解された。またGnT-Vは古くから癌の転移に関係が深い糖転移酵素として注目されてきたが、癌の種類によって予後因子としての重要性が異なる。つまりGnT-Vが糖鎖修飾し、その機能を変化させる標的分子の存在が意味を持つのではないかと考えられる。マトリプターゼは、GnT-Vの標的分子の1つで、甲状腺癌組織における両者の発現を検討したところ、非常に強い正の相関関係を認めた。さらに、マトリプターゼの糖鎖の違いを生かした新しい臨床診断の開発を目指して、マトリプターゼのELISA系を確立した。
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