研究概要 |
[方法]多発性骨髄腫(RPMI8226)および乳癌(MDA-MB-231)の細胞株を用いて、まず(i)癌細胞におけるbeta-1インテグリンの発現をフローサイトメトリー(FACS)で測定した。次に(ii)癌細胞を抗癌剤(アドリアマイシン(ADR),メルファラン(Mel),パクリタキセル(Paclitaxel),ビンクリスチン(VCR))の存在下で、細胞外マトリックス(フィブロネクチン(FN),タイプIコラーゲン(Collagen I),ラミニン(Laminin)をコーテイングしたプレートとコーテイングしていないプレートを用いて培養し、(a)アポトーシス細胞数の測定(FACSでアネキシンV陽性細胞を測定した),(b)CD95(Fas抗原)とMDR-1の発現解析(FACS)、(d)カスパーゼ3,カスパーゼ9,p53,Bcl-2の発現の測定(ウエスタンブロッティング法)を行い比較した。[結果]FACS解析では、多発性骨髄腫細胞株(RPMI8226)ではVLA4,乳癌細胞株(MDA-AB-231)ではVLA2とVLA5の発現を認めた。RPMI8226では、VLA4を介してFNと接着することで、ADRとMelに対する抗癌剤感受性の低下を来すことが明らかとなったが、その分子機構(細胞内シグナル)を明らかにすることはできなかった。MDA-MB-231では、VLA2を介したCollagen Iとの接着、およびVLA5を介したFNとの接着で、PI3K/Akt/Bcl-2シグナルを介して、PaclitaxelとVCRに対する抗癌剤感受性の低下を来すことが明らかとなった。これらの抗癌剤による細胞障害からの回避は、アポトーシスの抑制であることを見出した。アポトーシス関連蛋白(CD95(Fas抗原),Bcl-2,カスパーゼ3,カスパーゼ9,MDR-1,p53の発現を検討したところ、これらの癌細胞のMDR-1,Fas抗原およびp53の発現には全く変化を与えなかったが、抗癌剤によるカスパーゼ3,カスパーゼ9の活性上昇の抑制をもたらし、これがアポトーシス回避の機序と考えられた。[考察]上記の結果から、多発性骨髄腫ではVLA4,乳癌ではVLA2およびVLA5の発現が骨(髄)転移巣における抗癌剤耐性の原因となり事が示唆された。また、これらの接着因子を介した癌細胞の生存シグナルをブロックする事で、化学療法の効果を増強させ、骨(髄)転移を有する癌患者の治療成績を向上させる新しいアプローチ法となり得る事が想定される。
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