研究概要 |
DNA修復遺伝子群の一塩基多型(SNP)は、ヒト癌の最も大きな遺伝的要因の一つと考えられている。この遺伝子群におけるSNPの同定とその生物学的機能の評価を行うことは、発癌の分子機構をより深く理解し、また癌の進行や予後の予測といった臨床に直結した有用なデータとなると考えられる。またDNA修復遺伝子のSNPの中には、抗癌剤のテーラーメイド治療を行う上で、薬剤の作用機構(特にDNAを直接傷つけるもの)に影響を与える変異を含む可能性がある。本研究では、日仏国際共同研究体制で、DNA修復遺伝子のSNP検索を多人種で行うことで、人種的偏差を加味したSNPデータベースを構築し、SNPにもとづく癌の診断、治療に直結した次世代の臨床遺伝学の基礎情報の整備を試みた。本研究では123遺伝子を解析し、そのうち55遺伝子については白人・日本人・タイ人、残りの68遺伝子については上記3人種にアフリカ人を加えた4人種について、SNP探索を行った。健常者それぞれ32検体を、プロジェクト全体を通してSNP解析の標準的パネルとして用い、2検体ずつを同じコピー数混合して、16プールについて塩基配列再決定をおこない、結果をSNP自動検出プログラムで解析し、SNPを同定した。その結果以下のことが明らかとなった。 1.93万塩基対のゲノム上の領域を解析し、2,863個の未知のSNPを含む総数4,940個のSNPを同定した。そのうち1,254個がエクソンに位置し、アミノ酸変異を伴うSNPは493個であった。 2.解析したゲノム領域上におけるSNPの頻度は、平均して1,000塩基当たり5.3個で、一般的に知られているゲノム上のSNPの頻度(数百塩基〜1,000塩基に1個)より高かった。 3.結果をデータベースに取り込み、各遺伝子についてSNPの組み合わせのハプロタイプを推定し、大規模なジェノタイピングに用いるマーカーを効率よく選択する方法を開発した。
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