研究概要 |
化学療法剤に対する反応性が良好な悪性リンパ腫は、一定の割合で治癒を期待できるようになってきたが、すべてが治癒するとは限らない。再発のリスクが高い患者を統計学的手法により見極め、先進的治療を行なう層別化が重要である。国際予後指標(IPI)などの臨床的予後因子がこれまでに用いられてきたが、これは何らかの生物学的予後因子を反映した代替因子(Surrogate factor)であると考えられており、真の予後因子であるの生物学的予後因子を見いだすことは理にかなったものである。本研究では、未分化大細胞型リンパ腫・急性骨髄性白血病(AML M2,M3)で既に予後因子となることが見いだされている分子マーカーCD56がB細胞性リンパ腫においても予後因子となるか、およびその発現意義に関して検討することを目的とした。びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫およびバーキットリンパ腫症例で、CD56の発現を検索し7例の陽性例を見いだした。興味深いことに全例CD10が陽性であり、濾胞中心細胞由来であることが示唆された。CD56陽性例では、BCL2,BCL6,c-Myc,API2,MALT1といった遺伝子異常は認められなかった。臨床的特徴としては、CD56陽性例は巨大腫瘤を作る傾向があったが、全身播種はせず、予後は特に不良とは言えなかった。多変量解析では、IPIの構成要素である年齢、病期、全身状態(performance status)、血清LDH値、節外病変数の5つは独立した予後因子として抽出されたが、生物学的予後因子としては、既に予後予測因子とされているCD5も含め有意な因子は見いだされなかった。本研究で見出されたCD10陽性CD56陽性の一群は、濾胞性リンパ腫とは関係なく、一部はバーキットリンパ腫と重複する可能性があるが、その位置づけに関しては今後の検討課題である。CD56は他のリンパ腫や白血病では予後予測因子になることが指摘されているが、B細胞性リンパ腫ではそうでなく、universalな予後予測因子とは言えなかった。B細胞リンパ腫の予後を決定している生物学的予後因子は、未知の因子の同定も含め、今後の検討課題であると考えられる。
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