研究概要 |
本研究は,ショウジョウバエ消化管の主要器官である中腸と後腸の決定に関わる遺伝子bynとdGATAeの強制発現による標的遺伝子の反応性を指標として,器官決定過程におけるエピジェネティックな制御の機構解明を目的としている.これまでの研究で,bynおよびdGATAeの強制発現によって誘導される標的遺伝子が多数同定され,さらに誘導反応が胚組織や発生時期で異なるだけでなく,標的遺伝子によっても異なることがわかった.これは,標的遺伝子のシスエレメントとこれら器官決定遺伝子産物の相互作用が,発生過程におけるエピジェネティックな変化を解明する有力な手掛かりになることを示している.今年度の研究では,bynとdGATAeの標的遺伝子の探索とエンハンサー解析,それに標的遺伝子の転写制御に関わるdGATAeのドメイン解析を中心に解析を進め,以下の研究成果を得た. 1)中腸分化マーカー遺伝子の発現制御経路の解明 中腸を形成する内胚葉はGATA遺伝子であるserpent (srp)によって発生運命を決定され,引き続いてsrpが活性化するGATA遺伝子dGATAeが,中腸で発現する機能遺伝子の大半の転写活性化を引き起こしていた.dGATAeに依存しないマーカー遺伝子も存在したが,いずれもsrpに依存することがわかった. 2)中腸分化マーカー遺伝子の発現に関わるdGATAeタンパクの機能ドメイン解析 dGATAeタンパクは2つのzinc fingerモチーフ(N finger, C finger)を持ち,N末領域にはグルタミンリッチなドメインが複数ある.標的遺伝子の活性化には,C fingerとグルタミンリッチドメインが必須であることがわかった. 3)後腸決定遺伝子bynの強制発現による後腸形質の誘導作用 後腸の特定の細胞型の誘導にはbynに加え,それぞれの細胞型に対応する転写因子遺伝子の両者が必要であることが示された.
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