研究概要 |
前年度の研究でPMP, PPO, DPO, POPOP,α-NPD, P-ターフェニールなどの波長変換剤を入手し、それらのうちアルコールにも溶けるものを用いて、物理的に波長変換剤をシリカアルコロゲルの骨格に混ぜ込んでの添加を試みた。しかし、作成されたサンプルを超臨界乾燥で溶剤を抽出しシリカエアロゲルを作成したところ、超臨界乾燥でほとんどの波長変換剤が抽出されてしまい、シリカエアロゲル中には残存しないことが判った。実際、抽出された溶液を分析してみると、アルコゲルに溶け込んだはずの波長変換剤が多く含まれており、上記の結果を裏付けるものであった。 一方、波長変換剤を真空蒸着でシリカエアロゲルの表面に添加したものも試作したが、蒸着の厚さが50nmと薄かったために、大きな波長変換の効果は得られなかった。この方式では0.1μm以上の厚さが必要となるが、製作に時間がかかりすぎ、大量生産には向いていない事が判った。 これらの結果を踏まえ今年度は、物理的添加と平行して化学的に添加する手段を薬品メーカーの技術者と相談しながら検討した。具体的には、シリカエアロゲルに含まれる水酸基を強制的に波長変換に適した芳香族を含んだ分子に置換する方法を積極的に進めた。まず、波長変換剤としてα-NPDを選択し、それを初期化合物とした。そして2〜3ステップの化学反応の後、ベンゼン環に結合する水素原子を、COOHに置換した試薬の合成を試みることにした。COOHが存在することにより、容易にシリカエアロゲルの骨格に結合すると考えられる。また化合物の電子軌道計算により、この物質では354nmに吸収光のピークが存在すると見積もられた。しかし、薬品メーカーによる努力にも関わらず、目的の試薬の収量は極端に少なく、実際にシリカエアロゲルに添加することは出来なかった。 これらの結果から最後の試みとして、パラ・ターフェニールを溶かすのではなく混ぜ込んだシリカエアロゲルの製作をおこなうことにした。現在この方法でシリカエアロゲルを製作中で、完成後、宇宙線を用いたテストベンチによりチェレンコフ光の光量測定を行い、性能を評価する予定である。
|