研究概要 |
これまでの研究で、キラルなアルコールのアルケニルエーテル類、とくにビニルエーテル類の不斉加水分解や不斉加アルコール分解にコバルト触媒系が有効であることを報告している。今年度は、軸不斉ビフェノール化合物、2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビアリール類のビニルエーテルの不斉加アルコール分解について検討し、テトラフェニルフェニル基を有する不斉ジアミン配位子が、k_<rel>20-40という高い選択性を発現することを見出した。今回、不斉合成できたこれらの分子は、不斉配位子の原料や生体機能分子として重要でありながら、不斉水素化や不斉アルドール反応などの既知の不斉反応では合成できない物質群である。また、2-ナフトール類の酸化的不斉カップリング反応で、2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビナフトール類の不斉合成は行えるが、2,2'-ジヒドロキシ-1,1'-ビフェノール類は反応性が低いため酸化カップリングには適さず不斉合成が困難な化合物だっただけに、成功の意義は大きいと考えている。また、アズラクトン類(2-フェニル-5-オキサゾロン類)の加アルコール分解において銅触媒系で高い選択性が達成できることをみいだした。この触媒反応系では、速度論分割の効率(k_<rel>値)を計算する1次反応の式(kaganの式)が適用できず、0次反応として解析するとよく合致するという興味深い現象を見出した。0次反応は各種の均一系触媒反応や、生体触媒を用いる触媒反応で、しばしばみられるのにもかかわらず、0次反応として速度論分割を解析した例はないので、速度論的光学分割における新現象として学術的にも面白いと考えている。
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