研究概要 |
昨年度までの研究で、適度な剛直性と柔軟性を有する2-(フェニルアゾ)フェニル基をケイ素上に導入し、アゾ基を配位部位かつ光応答部位として利用することにより、ケイ素化合物の配位数と反応性を光照射によって制御する手法を開発した。今年度は、アゾ基を有する種々のケイ素化合物、ホウ素化合物およびリン化合物の物性・反応性の制御へと展開した。初めに、アゾ基を有するカテコールボランの配位数を光照射によって制御した。ピリジンとの錯形成を指標にして、ルイス酸性の変化を^<11>B NMRを用いて定量的に評価したところ、アゾ基の光異性化に伴って約300倍変化することがわかった。すなわち、ホウ素化合物のルイス酸性の光制御に成功した。次に2位にジフェニルホスフィノ基を有するアゾベンゼンを合成した。温度可変紫外可視吸収スペクトルおよび温度可変多核NMRにより、窒素-リン結合を有する分子内ホスホニウム塩とホスフィンとの平衡状態にあることを見出し、その平衡比を温度変化によって制御できることを明らかにした。また、過酸化水素、単体硫黄、単体セレンに対しては通常のホスフィンとしての反応性を示し、水に対してはホスホニウム塩としての反応性を示すことがわかった。次に二つのアゾ基を有する5配位1,1,3,3-テトラヒドロジシロキサンの(E,E)-体に対して触媒量のフッ化物イオン存在下での加水分解では、炭素-ケイ素結合が切断されてN,N'-ジフェニルヒドラジンが生成するのに対して、光照射によって定量的に生成する4配位ケイ素化合物の(Z,Z)-体では、同様の反応条件で、炭素-ケイ素結合を保持したシルセスキオキサンが生成することを見出した。すなわち、光照射により、炭素-ケイ素結合切断を伴う反応を制御することが出来た。以上のように、アゾ基を有する典型元素化合物の配位数制御を利用して、物性、反応性を制御することに成功した。
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