研究概要 |
本研究者は,オリゴシラン鎖の分子ワイヤーとしての機能の評価,特にケイ素鎖の立体配座が光誘起電子移動におよぼす影響を考察することを目的として,双環構造を有するジシラン(1,7-ジシラビシクロ[5.5.0]ドデカン)を構成単位とすることで,ケイ素鎖長ならびに立体配座が規制されたオリゴシランで架橋されたポルフィリン-フラーレン(C_<60>)ダイアドを合成し,それらの定常吸収・発光スペクトルならびに,蛍光寿命および時間分解過渡吸収スペクトル測定をベンゾニトリル中でおこなった。その結果,ダイアドにおいては,フラーレンが連結されていない参照化合物に比べ,定常吸収ではSoret体の吸光係数の顕著な減衰が見られた。これは,基底状態でポルフィリンとフラーレンとの間の相互作用の存在を示唆する。また,ダイアドは参照化合物に比べて定常吸収が著しく消光されており,発光寿命も短寿命化していた。さらに,ナノ秒過渡吸収スペクトルからは,ポルフィリンラジカルカチオン種およびフラーレンラジカルアニオン種の生成が観測された。これらの結果は,ダイアドを光励起すると,ポルフィリン部分からフラーレン部分へ電子移動が起こることを示している。リンカー部分のケイ素鎖長ならびに立体配座依存性に関して考察した結果,これらの構造的要因が電子移動におよぼす影響は全くないとは言えないものの,比較的小さいこともわかり,ケイ素鎖の分子ワイヤーとしての性質解明への重要な足がかりとなる知見を得た。
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