研究概要 |
原子効率性の高いナイトレン錯体の発生法を開発することは重要である。既に我々は,遷移金属によるアルキンの活性化によりカルベン錯体が原子効率的に発生することを見出し,それを利用した触媒的な分子変換反応を開発してきた。本研究では,この反応性原理をニトリル(炭素-窒素の三重結合)に拡張し,ニトリルの窒素原子をナイトレン源とする新しい触媒反応を開発することを目的に研究を進めた。反応制御法としてアルキンの活性化で有効であった環化法および転位法を利用してニトリルからのナイトレン錯体の発生法を検討した。 1,2-ジクロロエタン中,種々の遷移金属触媒の存在下,シアノメチルアセテートとスチレンとの反応を検討したところ2価のCu(OTf)_2を用いた時,シアノメチルアセテートのニトリル部分を窒素源とするスチレンのアミド化が進行した。なお,シアノメチルアセテート以外のニトリルを基質として用いた場合は,アミド化の進行は見られず,シアノメチルアセテートの反応特異性が明かとなった。本反応は,予想したナイトレン錯体の発生に基づくものではないものの,想定中間体へ水分子が付加した中間体を経て進行していると考えられる。また,β-シアノα,β-不飽和ケトンを基質とする環化を利用したナイトレン錯体発生法を用いた試みにおいても,2価のCu(OTf)_2触媒が活性を示し,β-シアノα,β-不飽和ケトンとスチレンの1:1付加物が得られた。X線結晶構造解析の結果,生成物は5-styryl-1H-pyrrolin-2(5H)-oneであることがわかった。また,α-メチルスチレンとの反応では,ピロリノンの5位がアリル化された生成物が得られた。本反応では,まず二トリルの水和により生じたアミド基とカルボニル基との脱水反応が進行し2-aza-2,4-cyclopentadienone環化体を生成した後,イミン部位へのアルケンの求核攻撃を考えると合理的に説明できる。
|