研究概要 |
平成17年度は,以下の研究を遂行した。 1.スクッテルダイト系の動力学を近藤効果を考慮したモデル計算により求めた。前年度までに混成相互作用による結晶場の形成を詳しく調べていたが,今年度はこの成果を基にして,高次の混成効果の物理量への反映をNCAによって定量的に導出した。その結果,結晶場一重項と近藤一重項の競合が励起結晶場準位だけでなく,その波動関数にも強く依存している様相を明らかにした。 2.スクッテルダイト系の電子状態と動力学の全体像を明らかにするためのレビューを行なった。この中で,局所的な混成相互作用とサイト間相互作用の両方の効果を考慮することの重要性を強調し,定量的な理論結果と実験結果との比較を行なった。 3.PrFe4P12の電子秩序を分子場理論で研究した。特に[111]方向の高磁場でのみ現れる秩序相と,無磁場でも現れる別の秩序相を同一のモデルから再現した。その結果,四極子相互作用とともに,双極子と八極子のサイト間相互作用が重要であることがわかった。0_2^0型の四極子秩序を仮定すると,PrOs4Sb12の場合とは異なり,基底状態に縮退が残ることを示した。量子力学的な揺らぎを考慮すると,この縮退は除かれ,最終的な秩序変数は四極子ではなく,むしろ結晶場スカラーである可能性を指摘した。このスカラーは球対称の場では,16極子あるいは64極子という高次の多極子に対応する。 4.上記のスカラー秩序変数モデルを,PrFe4P12の磁場中中性子散乱とNMRの実験結果の解釈に用いつつある。誘起反強磁性のモーメントが磁場に垂直な成分を持たないという結果は,四極子秩序変数と矛盾することを明らかにした。一方,スカラー秩序変数モデルは,現象論的パラメタを導入することによって,NMRスペクトルの方向依存性や誘起磁化,秩序温度の磁場方向依存性などを自然に説明する。
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