研究概要 |
本研究では,定常強磁場,極低温,高圧,局所の複合した極限環境下における,低次元有機伝導体のゆらぎ,特に低温における量子ゆらぎが影響する臨界相転移現象の解明と,新奇電子状態,相転移の探索を行うことを目的とした.本年度は,1.ダイヤモンドアンビルセルを使用した10GPaの高圧環境における輸送特性測定環境の構築を行った.この結果ルビー蛍光測定による精密な圧力測定を物性測定と同時に低温で行えるようになった.2.超伝導状態,磁束状態において,量子ゆらぎが関与する量子磁束液体状態と抵抗転移曲線との相関を,クランプ式圧力セルを用いた低圧印加(1GPa以下)により物質パラメーターを変化させて系統的に調査し,磁場中転移曲線の圧力変化から量子ゆらぎ強度の変化に関する知見を得た.3.モット転移などの相転移に伴う不均一や電荷秩序とその融解状態など,均一な系における種々の電子的「不均一」状態が存在する.このような状態を実空間情報として得るためには異なる長さスケールの分解能,走査領域を有する局所測定プローブが必要である.本研究では,(1)マイクロメータースケールのプローブとして放射光赤外光を用いた走査型局所赤外反射スペクトル測定法によるモット転移近傍での電子相分離の研究を,(2)ナノメータースケールのプローブとして走査型トンネル顕微鏡を用いた電荷秩序状態の研究を行った.(1)ではモット1次転移近傍での電子系過冷却による相分離状態とその温度変化の観測に成功し,湾曲した1次転移線に起因するリエントラントな相転移過程と相分離状態を見出した.(2)では電荷秩序状態のSTM測定に成功し,電荷秩序の実空間パターン像を得ることができた.
|