研究概要 |
ドナー・ドナー直交型シクロファン(DT-TTF直交型シクロファン)1は、(1)直交したπ-電子系間での電子移動、(2)分子内電荷分離、(3)電子移動の方向性制御、(4)ドナーユニット間の相互作用などが期待できる。今回、二つのドナーを組み込んだ直交型シクロファン1および、基本ユニットである1,3-dithiol-2-ylideneを組み込んだDT直交型シクロファン2を合成した。 電位勾配が期待できるドナーとアクセプターをそれぞれ組み込んだドナー(1,3-dithiol-2-ylidene : DT)・アクセプター(dicyanoethylidene : CN)ドナー・アクセプター直交型シクロファンであるDT-CN直交型シクロファン3および、金属イオンによる電位勾配の制御が可能な系として、ドナーユニットにクラウンエーテル(15-crown-5 ether :15C5)を組み込んだ15C5-DT-CN直交型シクロファン4の合成に成功した。 合成したドナー・ドナー直交型シクロファン(1,2)、ドナー・アクセプター直交型シクロファン(3,4)の光物性、電気化学的特性を明らかにするために、電子スペクトルおよびCV測定を行った。電子スペクトルの結果より、ドナー・ドナー直交型シクロファン(1,2)では、ドナーユニットからベンゼン環への分子内電荷移動バンド(ICT)が観測され、共役していない直交系での分子内電荷移動相互作用が存在するが明らかとなった。また、ドナー・アクセプター直交型シクロファン(3,4)では、ドナー・ドナー直交型シクロファン(1,2)に比べて、分子内電荷移動バンド(ICT)が20nm長波長シフトしていることから、ドナーユニットからベンゼン環へ、さらにベンゼン環からアクセプターユニットへの遠隔分子内電荷移動相互作用の存在が示唆された。CV測定の結果より、ドナー・ドナー直交型シクロファンでは、2の三段階酸化過程の内、第一・第二酸化過程がDT部位によるもので、DT間の相互作用は観測されなかった。一方、DT-TTFユニットを有する1では、六段階の酸化過程の内、第一から第五酸化過程がDT-TTFによるものであり、DT-TTF間の相互作用が存在することが示された。 ドナー・ドナー直交型シクロファン2a,2bのX線結晶解析より、DT部位とシクロファンベンゼン環は、互いに直交していることが明らかになった。さらにDT部位のメチルチオ基のメチル水素あるいはエチルチオ基のメチレン水素とシクロファンベンゼン環との間にCH-π相互作用が観測された。このCH-π相互作用は、2a(2.96Å)よりも2b(2.74Å)が強く、また、2bではもう一つベンゼン環水素とDT環の間にもCH-π相互作用が観られた。
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