研究概要 |
生命現象において極めて重要な役割を果たしている「生体分子」と「水」との相互作用の効果を系統的に調べるために,単純な繰り返し構造を持ったポリペプチドや合成高分子を蛋白質のモデル分子としてとりあげ,これらの水溶液について分子シミュレーションを行った。また,モデル分子に対して分光学実験などを行い,シミュレーションとの比較検討を進めた。以下に,概要を示す。 1.これまで検討した分子に加え,ポリオキシエチレン(POE)およびポリグルタミン(PGLN)について検討を進めた。これらの水溶液について分子動力学(MD)シミュレーションを行い,水和構造に関して解析を行った。水分子を(1)高分子の親水基の周囲,(2)疎水基の周囲,および,(3)それ以外のバルク領域に分類し,それぞれの領域について,水素結合数分布,水素結合の寿命,配向緩和時間などを計算した。各親水基や疎水基が水の水素結合の構造やダイナミックスにおよぼす影響を明らかにした。また,PEOの高温における相分離挙動に関しても検討を進めた(玉井)。 2.アミロイド線維のモデルとして,ポリグルタミン凝集体の水和構造に関する検討を始めた。βシート状の分子鎖の集合体と水との2相界面モデルを構築し,MDシミュレーションを行った。凝集体表面の水和構造を解析した(玉井)。 3.カルボキシベタインを側鎖に含む生体適合性高分子の水和構造を調べるために,モデル化合物の水和構造に対して分子軌道法により振動数計算を行った。FT-IRおよびFT-ラマンスペクトルの実験結果と比較した。また,自由エネルギー摂動法にもとづく新しいシミュレーション手法を開発し,溶解度および蒸気圧の計算に適用した(福田)。 4.凝集性蛋白質や合成ペプチドを架橋修飾し,クロマトグラフィー,分光学実験,質量分析などを行うことにより、架橋修飾が蛋白質の凝集性におよぼす影響について解析を進めた。また,アミロイド凝集性の短鎖モデルペプチドの水溶液に対して,実験と分子動力学シミュレーションを並行しておこない,アミロイド凝集現象の背後にある分子機構の解明を試みた(今野)。
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