研究概要 |
本年度の計画を実行し,以下の成果を得た。 1.高温性細菌Hydrogenophilus thermoluteolus由来のシトクロムc_<552>の安定性と構造解析:52℃に生育する標題菌のシトクロムc_<552>(PH)の安定性を測定し,X線結晶解析により構造面からPHの安定性の機構を明らかにした。具体的には,まずPHの遺伝子をクローン化し,大腸菌での発現,2.1Åの分解能でのX線結晶解析に成功した。CDスペクトルを指標にした変性実験から,PHの安定性は,常温菌Pseudomonas aeruginosa(最適生育温度37℃)のシトクロムc_<551>(PA)よりも高く,好熱菌Hydrogenobacter thermophilus(同72℃)由来のシトクロムc_<552>(HT)よりも低いことを明らかにした。 2.超耐熱性シトクロムcの予期せぬ大腸菌での構造形成:超好熱性細菌Aquifrex aeolicusのシトクロムc_<555>(AA)遺伝子を大腸菌に導入すると,シトクロムcの成熟化に必要とされる因子がない状態でも,ホロ型蛋白質として発現することを見出した。一般的に,シトクロムcの構造的な特徴は,Cys-X-X-Cys-His配列が保存されていること,この2つのCysに活性中心であるヘムが共有結合していること,である。グラム陰性菌において,ポリペプチド鎖とヘムはペリプラズムで結合する。結合に際して,チオール・ジスルフィド酸化還元酵素(Dsb蛋白質)がCys残基側鎖の酸化還元状態を制御している。本研究では,AAがdsb欠損大腸菌株において野生株以上に発現し,さらにヘムが結合するCysを2つともAlaに置換してもヘムを保持することを示した。他のシトクロムcには見られないこのような性質は,AAがアポ型状態でも遊離のヘムを取り込むことができる構造を形成しているためと考えている。
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