研究概要 |
天然蛋白質の配列は、その立体構造を決定する視点から、「雑音」となる様々な情報を含む。そこで、我々は以前、仔牛膵臓トリプシン阻害蛋白質(BPTI)の構造及び活性を変えずに、雑音となる情報の冗長性を除いた単純化アミノ酸配列の作製が可能であると実験的に示した。「単純化配列」とは、構造安定性への寄与が小さい残基位置をスペーサー役のアラニンに置き換えた配列を示す。本研究課題では、単純化酸配列からなる蛋白質と天然配列から成る蛋白質の比較から、蛋白質の構造形成・構造安定性及び溶解性の分子機構を、定量的に解明することを目指して研究を進め、以下の成果を得た。 1.配列を単純化した6種類のBPTI変異体(BPTI-[5,55],-21,-22,-26,-27)のDSC測定を行い、変生に伴うエンタルピー差(ΔH_<vH>及びΔH_<cal>)、エントロピー差(ΔS)、変性温度(Tm)と熱容量差(ΔCp)を求め、単純化配列からなる蛋白質の熱力学を初めて明らかにした(長岡技術大学・城所俊一博士と共同研究)。 2.BPTI-21に2つの変異を導入したダブル変異体(BPTI-21/A14V・A38G)の安定性がBPTI-21より10℃以上高いことを明らかにした。現在、それぞれの単独変異の安定化への寄与を調べるため、BPTI-21/A14V及び-21/A38G(シングル変異体)を構築し、解析中である。 3.蛋白質の溶解度を向上させる一般的な方法の開発。我々は、BPTI-22のN末及びC末に10残基程度の短い親水性配列を付加することで、溶解度が最大で5倍向上することを明らかにした。溶解度を向上させることで、従来の1/8の時間でNMR(HSQC)が測定可能になり、SN比、ピーク形態が共に改善された。この手法は、対象蛋白質の配列を変えないため、一般的な方法となることが期待される。(東京大学・桑島邦博博士との共同研究)
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