研究概要 |
高等植物の種子には発芽後の窒素源として、種子貯蔵タンパク質が大量に蓄積している.これらの貯蔵タンパク質は種子の登熟期に小胞体でプロ型前駆体として合成され,タンパク質蓄積型液胞に運ばれ,プロセシングを受けて成熟型になる.私達はタンパク質蓄積型液胞への輸送には選別輸送レセプターAtVSR1が機能することを明らかにしている.本研究ではシロイヌナズナ変異体を用い,大量に合成・輸送される種子貯蔵タンパク質のメンブレントラフィック機構の解析を行った.AtVSR1のノックアウト変異体と同様に貯蔵タンパク質の前駆体を細胞外に異常分泌するmag1変異体の原因遺伝子はVPS29ホモログであった.VPS29はレトロマー複合体の構成因子の1つであり,データベース検索の結果,シロイヌナズナゲノムにレトロマー構成因子は保存されていた.別の構成因子であるVPS35はシロイヌナズナに3つ遺伝子が存在し,そのうち特定の二重変異体でmag1変異体と同様の表現型が観察された.植物においてもレトロマーが機能し,AtVSR1のリサイクルを介して貯蔵タンパク質の輸送に関与していることが判明した.一方,細胞内に貯蔵タンパク質前駆体を蓄積するmag2変異体の原因遺伝子は酵母TIP20/動物RINT1のホモログであった.酵母TIP20はtethering factorでゴルジ体から小胞体への逆行輸送に関わる因子である.酵母ツーハイブリッド法により,MAG2タンパク質が小胞体SNAREであるAtUfe1及びAtSec20と相互作用することが判明した.さらに,これまでに単離した4種類の変異体種子の電子顕微鏡観察を行った。これらはmag2変異体と同様に,貯蔵タンパク質の分泌は見られず,細胞質に電子密度の高いコアを含む新規構造体が観察された.この構造体の周囲にはリボソームが付着しており,小胞体由来であると考えられた.これらの変異体では貯蔵タンパク質の小胞体からの輸送過程に異常があると考えられた.
|