研究概要 |
<研究目的>ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のウイルス粒子が細胞から放出されるためにはウイルスがコードしている9個の蛋白質のうち、構造タンパクであるGag蛋白の細胞内単独発現で必要十分である。その際、Gag蛋白の輸送、ウイルス粒子の組み立て・出芽放出といったウイルス複製の後期過程は細胞内の膜輸送の経路を利用していると考えられている。 我々が開発した出芽酵母のスフェロプラストよりウイルス様粒子を出芽させる系を用いてHIV-1の複製後期過程に関与する宿主因子の同定・解析を行うことを目的として実験を行った。細胞活動を乗っ取って繁栄しているウイルスを利用することにより膜輸送機構を違った切り口から捉え、さらなる理解につなげることが期待された。 <進捗状況及び成果>昨年度開発したスクリーニング法を用いて実験を行った。具体的には出芽酵母のゲノム上のそれぞれのORFを欠失している約4,500種の各株にHIV-1Gag-Firefly Luciferase蛋白発現プラスミドを導入し、トランスフォーマントを得た。トランスフォーマントの細胞壁を取り除いたスフェロプラストの培養上清にPEGを加えて得られた沈殿のルシフェレース活性を測定し、ウイルスの放出量とした。 ウイルスの出芽放出に関与していると報告されているTSG101やALIXの酵母ホモログ欠損株ではウイルス様粒子の放出量が減少していた。さらに、エンドソームからTGNへの輸送に関与するレトロマー複合体の3種類のサブユニット(VPS5,VPS29,VPS35)欠失株ではウイルス様粒子の放出量が増加していたことからレトログレード輸送の経路がHIV-1複製の後期過程に関与している可能性が示唆された。 今後はエンドソームからTGNへのレトログレード輸送経路とHIV-1の関係の解析を進めるとともに、さらなる宿主因子を探索するためにスクリーニングの続きを行う予定である。
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