研究概要 |
近年の研究から,植物の小胞体は生育段階に応じてその働きや構造を大きく変えることが明らかとなってきた.シロイヌナズナの小胞体の動態を観察するために,小胞体残留シグナルを付加した緑色蛍光タンパク質,SP-GFP-HDELを発現するシロイヌナズナ(GFPh株)を作成した.GFPh株の観察から,直径およそ10μmほどのERボディを発見した.ERボディは,幼植物体の表皮に普遍的に観察される.ERボディは,成長した植物体ではほとんど見られないが,傷害や傷害ホルモンであるジャスモン酸により誘導される.これらのことから,ERボディは虫害や病害に対する防御の役割があると予想される.ERボディの形成機構を調べる目的で,幼植物体でERボディが形成されない劣性変異体,nai1を単離,解析した.NAI1はbHLH型の転写制御因子をコードしていた.nai1では,小胞体残留シグナルをもつβグルコシダーゼ,PYK10の発現,蓄積が見られなかった.免疫電子顕微鏡観察から,PYK10はERボディに蓄積することが明らかとなった.興味深いことに,PYK10を過剰発現させたnai1では,ERボディが出現した.よって,PYK10の小胞体への蓄積が幼植物体のERボディ形成に重要であると考えられた.一方,nai1に傷害ホルモンであるジャスモン酸を与えた場合,ERボディ様の構造が形成されることから,NAI1以外のジャスモン酸シグナルに関わる転写制御因子が,傷害誘導のERボディ形成に関わっていると思われた.bHLH型の転写制御因子,AtMyc2はジャスモン酸のシグナル伝達に関与する.そこで,傷害を与えたatmyc2変異体を観察したところ,傷害誘導のERボディが形成されないことがわかった.このことから,幼植物のERボディ形成とは異なり傷害によるERボディ形成にはAtMyc2が関与していることが考えられた.
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