研究概要 |
生体分子の機能解明には,分子生物学・薬理学・生化学等様々な手法を用いて標的分子を不活化する研究が有効であるが,中でもレーザー分子機能不活性化法(Chromophore-assisted Laser Inactivation : CALI)は時間的・空間的に厳密に制御した不活性化ができるため注目を集めている.CALIは,色素が結合した抗体あるいはリガンドを細胞内に導入し,標的分子に結合した後,この結合体にレーザーを照射し色素から生じるラジカルにより標的分子を不活性化する方法である.CALIは特定の時間と場所で不活性化ができるという利点を持つものの,標的分子の認識に抗体を用いるために細胞内導入が難しく,生理的条件下の応用は困難であった.そこで,細胞膜透過性のCALIプローブをデザイン・合成することで,細胞をすりつぶさないで細胞が生きた状態のまま標的分子を特異的に不活性化できる手法の開発を目的とした。CALIの標的分子としては,細胞内Ca^<2+>動態を主に制御しているイノシトール3リン酸(IP_3)受容体を選択し,新規に細胞膜透過性の合成小分子プローブMGIP_3/PMをデザイン・合成した.デザインにはリン酸基と蛋白質の静電相互作用の他,ソフトな分子間相互作用を行うため色素分子が疎水性相互作用によって標的分子と親和性を持つようにデザインした.次にMGIP_3/PMをロードした細胞にレーザーを照射し,IP_3を産生する刺激を行った.レーザーの当たっていない細胞では,IP_3によりCa^<2+>オシレーションが起き正常な細胞応答を示したが,レーザーの当たった細胞ではCa^<2+>応答が大きく抑制され,生理的な条件でCALIを行うことができることが示された.次に,用いた細胞(DT40)条件においてIP_3受容体の関与が示唆されている,細胞外からのCa^<2+>流入(capacitative Ca^<2+> entry, CCE)を誘導した.その結果,CCEにはCALIの効果は現れなかった。この結果からIP_3受容体の活性化はCCE機構に関与しないことが示唆された.
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