研究概要 |
我々はこれまで数年間の研究でインテグリンの細胞外ドメインの構造が活性化やリガンド結合によって大きく変化することを明らかにした。細胞外ドメインのおおまかな構造はX線結晶解析から、短い細胞内ドメインペプチドの構造はNMRでそれぞれ解かれているが、シグナルの"関所"とも言える両サブユニットの膜貫通ドメインについては、そもそも膜内で安定な2量体を形成しているのかさえ実験的には確かめられていなかった。そこで膜貫通部位の残基に一つ一つしらみつぶしにシステイン変異を導入して細胞にトランスフェクトし、サブユニット間のジスルフィド結合形成を見ることによって位置情報を得る、という「システインスキャンニング」を行った。膜貫通ドメインに埋もれている残基はたとえ近くにあってもジスルフィドを形成できないが、酸化剤で処理することによってこれを誘導することができる。このような実験を、血小板のインテグリンであるα_<llb>β_3の各サブユニットの膜貫通部位付近の多数の残基のペアにたいして行い、以下の情報が得られた。 (1)α_<llb>サブユニットではTrp^<698>が、β_3サブユニットではVal^<695>が、それぞれ細胞外ドメイン-膜内部位の境界であること。 (2)両サブユニットの膜貫通ヘリクスは、低親和性状態では特異的な配向をもって会合しており、特にα_<llb>サブユニットのTrp^<698>,Val^<969>,Gly^<972>、β_3サブユニットではVal^<696>,Leu^<697>,Val^<700>がそのインターフェースに来ること。 (3)活性化されたインテグリンでは上記のインターフェースが壊れ、膜貫通部分においてサブユニットの解離が起こること。 本研究によって、インテグリンの膜貫通ヘリクス部分の解離が細胞外にまで伝播して細胞外領域の構造変化を引き起こし、活性を制御するという、「中から外へのシグナル伝達」のメカニズムが明らかとなった。
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