研究課題/領域番号 |
16048234
|
研究種目 |
特定領域研究
|
配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
生物系
|
研究機関 | 技術研究組合生物分子工学研究所 |
研究代表者 |
土屋 大輔 技術研究組合生物分子工学研究所, 構造解析研究部, 主任研究員 (30374127)
|
研究期間 (年度) |
2004
|
研究課題ステータス |
完了 (2004年度)
|
配分額 *注記 |
3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
2004年度: 3,500千円 (直接経費: 3,500千円)
|
キーワード | 多機能酵素複合体 / 基質チャネリング / X線結晶構造解析 / X線溶液散乱解析 / 立体構造変化 / 連鎖反応 / 脂肪酸β酸化反応 / 脂肪酸代謝 |
研究概要 |
基質チャネリングとは、連鎖反応中の中間基質が溶媒中へ自由拡散する前に次の反応を行う酵素へ結合する現象またはその分子メカニズムのことである。これまでに基質チャネリングを示唆する間接的な実験データは数多く報告されているものの、現象の有無を含めて未だに議論のある問題である。われわれは、関連する多機能酵素複合体の立体構造情報が限られていることが原因であると考え、多機能酵素複合体の原子レベル立体構造を決定し、それに基づいた実験から基質チャネリングの本質を明らかにしたいと考えた。そのために、脂肪酸分解に関わる多機能酵素複合体である脂肪酸β酸化酵素複合体にターゲットを絞り、研究を行った。利用したのはPseudomonas fragi由来の脂肪酸β酸化酵素複合体である。この複合体は、αサブユニット(分子量約8万)2分子とβサブユニット(分子量約4万)2分子からなる分子量約24万のヘテロ4量体である。我々は、この超分子複合体を結晶化し、最終的に立体構造決定に成功した。脂肪酸β酸化酵素複合体は、2つのαサブユニット(2-エノイルCoAヒドラターゼおよび3-ヒドロキシアシルCoAデヒドロゲナーゼ活性を含む)と2つのβサブユニット(3-ケトアシルCoAチオラーゼ活性を含む)がリング状に会合した立体構造をとっていた。そのリング状構造の内側に面している3つの活性部位と、2つの結晶形から推定されるリング構造の変形を伴う四次構造レベルの変化は、活性部位間の連係メカニズムの存在が予想された。さらに、αサブユニット上の基質結合部位の同定を行った。最初に、予想されたαサブユニット上の基質結合部位に変異を加えることによって、基質結合能が低下するかどうかを確認した。その結果、アデニン結合領域に相当するL290D/L293D変異体では、αサブユニットの活性が野生型の14%に低下することがわかった。一方、近傍のF294AやK142Aでは野生型の活性と大きな変化は見られなかった。この部位は、活性部位からは遠く離れているために、L290D/L293Dで導入された負電荷が疎水相互作用を主としたアデニン部分の結合を阻害した結果と解釈された。さらに、アセチルCoAが結合した結晶の立体構造決定を行い、予想通りに基質が結合することを確認した。また、基質結合に伴って起こる四次構造変化を追跡するために、X線溶液散乱実験を行った。この目的のためには高輝度のX線が必要なので、高輝度光科学研究センターSPring-8のビームラインBL40B2にて実験を行った。実験データの解釈は、測定した溶液散乱と結晶構造から計算される散乱曲線と比較することによって行った。まず、リガンドフリー状態では2回対称を示すForm Iに近い四次構造をとることがわかった。さらに、基質となるNADやアシルCoAを加えると散乱が変化し、2回対称のForm Iと非対称のForm IIの間の散乱曲線を与えた。すなわち、Pseudomonas fragi由来の脂肪酸β酸化酵素複合体は、リガンドフリー状態では2回対称のForm Iに近い構造を取るが、リガンド添加によってリング状構造が変形することが示唆された。
|