研究概要 |
【はじめに】近年、金属有機ミクロ孔物質(metal-organic microporous materials, MOMs)に対して化学的興味が持たれている1。特にCPL-1([Cu2(pzdc)2(pyz)]n (pzdc:ピラジン-2, 3-ジカルボン酸、pyz:ピラジン))に代表される多孔性配位高分子群は、これまでにない機能性材料として、その物性に大きな期待が寄せられている。本研究では1) CPL-1への小分子吸蔵(とくに酸素分子とアセチレン)に関するミクロ特性と、2) CPL-2([Cu2(pzdc)24,4'-bipyridine]n))中における高分子重合反応に関して、理論計算を用いて明らかにした。まず平面波基底の電子状態計算により、X線構造解析(XRPD)で得たCPL-1、CPL-1・202(即ち[CPL-1・202]n)及び、CPL-2の結晶構造を計算化学的に求めた。次にab initio分子軌道法(MO)計算2から再調製した有効ポテンシャルパラメータを用いて、CPL-1・202中の酸素分子吸蔵状態を分子力学(MM)的に構造最適化した。さらにグランドカノニカルモンテカルロ(GCMC)シミュレーションを実行して得られた吸着曲線などを実験的に観測された酸素吸蔵過程と比較検討して考察した。 【研究成果】1) CPL-1とへの小分子吸蔵に関するミクロ特性の解明 まず、CPL-1とCPL-1・202については、それぞれ結晶格子定数 a=4.751Å、b=19.38Å、c=11.31Å、α=γ=90.00deg.、β=99.16deg、(CPL-1)、及び、a=4.874Å、b=20.06Å、c=11.13Å、α=γ=90.00deg.、β=100.9deg. (CPL-1・202)という最適化構造が得られた。これらは実験値a=4.693Å、b=19.85Å、c=11.10Å、β=96.90deg. (CPL-1)、及びa=4.688Å、b=20.44Å、c=10.95Å、β=96.95deg. (CPL-1・202)を良く再現している[1]。またCPL-1・202について、a軸方向に対する酸素分子の傾斜角は約11.82deg.と求まり、実験値11.8deg. [1]と非常に良い一致を見せた。さらに、CPL-1がガス酸素やガスアセチレンの吸蔵に際して、酸素分子二量
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体を細孔チャネル方向に一次元梯子状に吸蔵し、アセチレンを細孔壁と水素結合を通して吸着するという、特異なミクロ物性を示すことを計算化学的に証明した[3]。最近、アセチレン吸蔵においては、格子当たりのアセチレン分子数が非整数となる中間吸蔵相の出現が実験的から予想されているが、本研究はその中間吸蔵相の物性理解に向けた大きな基盤となる。次に、酸素分子二量体の分子力場をフィッティングした。その結果、酸素分子二量体のLJバラメータについて、解離エネルギーDo-o=0.1182kcal/mol、平衡核間距離Reo=3.172Å、及び有効点電荷qo=-0.2227eを得た。こうして再調整した分子力場パラメータとUFF4を用いて、CPL-1骨格を固定し、酸素分子のみを可動状態として、CPL-1・202のMM的構造最適化を行った。c軸方向から見たCPL-1・202の電子状態計算による最適化構造、及びXRPDから得られた構造と非常によく一致した[5]。さらに、温度依存性を調査するためGCMCシミュレーションを実行し、ビーナッツ形で示した酸素分子が二分子並行で細孔内に吸蔵されることなどの実験結果を良く再現した。 2) CPL-2における特異的高分子重合の反応機構の解明 置換アセチレンの一つメチルプロピオレイト(methyl propiolate (MP))は、CPL-2中ではトランス付加重合することが実験的に知られている。この選択性を調査するために、MPのモノマーからノナマーまでを用いてCPL-2内での構造最適化と分子動力学計算を実行した。その結果、MPのビニル基がナノ孔壁のカルボキシル酸素に明確に配向しトランス付加を説明することができた。 【文献】 [1] (a) R. Kitaura, S. Kitagawa, Y. Kubota, T. C. Kobayashi, K. Kindo, Y. Mita, A. Matsuo, M. Kobayashi, H. C. Chang, T. C. Ozawa, M. Suzuki, M. Sakata and M. Takata, Science 2002, 298, 2358-2361; (b) A. Nakamura, N. Ueyama and K Yamaguchi. Eds., Organometallic Conjugation (Springer, 2002, Berlin). [2] B. Bussery-Honvault, V. Veyret. J. Chem. Phys. 1998. 108, 3243-3248. [3] (a) A. K. Rappe, C. J. Casewit. K. S. Colwell, W. A. Goddard III and W. M. Skiff, J. Am. Chem. Soc. 1992. 114, 10024-10035; (b) C. J. Casewit, K. S. Colwell and A. K. Rappe, ibid. 1992, 114, 10035-10046; (c) ibid., 1992, 114, 10046-10053. [4] Y. Ohta, H. Hitomi, M. Nagaoka, R. Matsuda and S. Kitagawa, J. Am. Chem. Soc., submitted. [5] M. Nagaoka, Y. Ohta, H. Hitomi, Coord. Chem. Rev. 2007, 251, 2522-2536. [6] T. Uemura, R. Kitaura, Y. Ohta. M. Nagaoka, S. Kitagawa, Angew, Chem. Int. Ed., 2006, 45, 4218-4222. 隠す
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