研究概要 |
まず,大規模なカオス結合系を物理的に実現するため,アナログ集積回路を核としたカオスニューロコンピュータを構築した.この際,脳の情報処理様式を念頭に置き,以下の2つのシステムを実現した.1)物理的なダイナミクスを外部から観測することにより,問題の解をアルゴリズムにより構築する,トップダウン的方法.2)ヒューリスティックなアルゴリズム中の意思決定プロセスを,下位の複雑系ダイナミクスにより駆動する,ボトムアップ的な手法.これら両方の手法において,物理ダイナミクスによるアナログ計算とアルゴリズムによる計算を融合させることにより,新たな計算装置を構築し,その挙動を詳細に観測・解析することにより,物理的な高次元カオス力学系のダイナミクスによる実数コンピューティングの新たな枠組みを提案した.その結果,特に組み合わせ最適化問題などにおいては,提案した計算システムが非常に有効であることが明らかになった.同時に,相互情報量を用いれば,ノイズを含んだハードウェアによる高次元力学系の挙動をある程度定量的に評価できることを示した. さらに,カオス素子からなる連想記憶ネットワークの新たな解析手法として,サロゲート法を導入した.すなわち,統計量の一部または全部を保存するサロゲートデータでネットワーク内の一部のニューロンを代替させ,これと元のネットワークの想起特性との関係を解析する.その結果,相互相関関数も非周期的な想起状態の維持に一定の役割を果たしていることを明らかにした.一方,カオスの制御を実施する前に行う状態空間の量子化に関して従来法に比べて圧倒的に計算コストが低い量子化手法を提案し,この手法により代表的な離散時間力学系と連続時間力学系の双方の制御が低い計算コストで実現できることを確認した.これにより,複雑計算システムの制御の可能性が示唆された. 次に,大規模物理カオス結合系実数コンピューティングの実用性を示すため,大規模カオス力学系を用いて,NP困難な組み合わせ最適化問題の最適解,準最適解を高速に探索する手法を開発した.特に,対象とした問題は,状態が時々刻々と変化する最短経路問題としてのパケット配送問題,ゲノム情報学における最重要課題の一つとされるモチーフ抽出問題,巡回セールスマン問題の実務的拡張とされる時間枠付き配送計画問題である.これらの問題を対象とした大量の数値実験の結果,提案技法が高度な解探索性能を有することが明らかとなった.また,非線形時系列解析分野で用いられるサロゲートデータ法を用いた解析により,カオスダイナミクス以外のダイナミクスでは性能劣化することも確認した.
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