研究課題
基盤研究(B)
分子進化の過程にはランダムな要素が多く、DNAやたんぱく質の配列データから系統樹推定を行うためには、確率モデルに基づく統計学的な解析が必須である。本研究では、分子系統樹推定のための統計手法の開発を行った。分子系統推定の第一歩は、分子進化の過程をどのようにうまく近似するかということである。本研究では、コドン置換モデルの有効性を示した(Sasaki et al.,2005)。従来この分野でよく使われてきた方法は、塩基座位間の独立性を仮定したものであったが、このようなやり方ではいかに精緻なモデルを構築しても明らかに現実の仮定とは大きく隔たったモデルにしかならない。それを克服するために、たんぱく質をコードしている遺伝子については、アミノ酸に翻訳した上で、経験的に得られているアミノ酸置換確率行列を用いるやりかたが一般的であった。しかしながら、このやり方では、アミノ酸に変化をもたらさない塩基置換(同義置換)の情報が使われないため、比較的近縁な種間の系統関係の推定には問題が多い。そのために、本研究ではコドンを単位とした分子進化モデル、つまりコドン置換モデル1が、実際のデータ解析にどの程度有効かを検討した。その結果、このモデルを用いることによって、多くの生物系統学的な問題が解決されることを示した。統計手法の開発に際しては、生物系統学、生物進化学の実際問題の解決を通して、解析法の問題点を洗い出し、どのような分子進化モデルが現実の進化過程をうまく表現しているかを検討した。このよう旨な実践を通して、実際の問題解決に役立つ解析法の開発ができた。
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