研究概要 |
まず,脳温の自動制御シミュレーションから患者内外の環境変化にも対応するために導入した最適・適応制御が,十分適用可能であることを確認した。これを踏まえて水冷式脳温自動管理システムを実験装置として開発し,小児の熱特性を表現する人形で実験を行い,制御誤差±0.1℃以内を達成した。次に小児患者が対象の臨床対応型の水冷式脳温自動管理装置を開発し,上述の人形を用いた長時間の実験から制御誤差±0.1℃以内を確認した。なお,ファジィ制御による脳温管理システムも考案し,同様の実験で誤差±0.5℃以内を達成した。 次に,これらの実験で得た成人の脳温制御の必要条件より,成人対応型水冷式脳温自動管理装置を開発した。そして,成人の熱特性,比熱,血液循環,代謝産熱を表現する人形を製作し,これによる実験から最適・適応,ファジィの両制御ともに誤差±0.05以下の精度を確認した。現在は,東京医科歯科大学医学部倫理委員会の承認を受け,本学脳神経機能外科学教室の協力を得ながら,本学医学部付属病院集中治療部に本装置を常備し,臨床応用の機会を待つ段階にある。 一方,水冷式に比べて辱創の発生や冷却効率の点で有利と思われる空冷式脳温自動管理システムの基礎開発を実際の装置として行い,上記の成人人形を用いたファジィ・最適・適応の両制御実験から良好な性能を確認した。特に,水冷式システムで注意を払った漏水の問題が考慮不要であり,運転・保守管理によるストレスが軽減可能でることは,将来の臨床での使用の際にも大きな利点となる。 ところで脳低温療法では頭蓋内圧と呼吸状態の管理も重要なので,マンニトール投与による頭蓋内圧の自動制御について,物理モデルの構築と解析から検討したのちに臨床で行う投与法と自動制御の比較を行い,理論的基礎を構築した。また,肺胞気PCO_2の適応極配置制御システムを実際の装置として構築し,臨床での応用を考慮した改良を加えながら臨床試験の準備を進めている。 また,構築した脳温管理システムの両制御システムの構造,機能,および意義を,平均的な患者像を対象とするパートと,それを基にした実際の患者を対象とするパートからなる2が行っている用手的制御の流れに類似し,これにより水冷式ならびに空冷式脳温自動管理システムの良好な性能の背景が鮮明になった。
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