研究課題
基盤研究(B)
本研究では、顕在的・潜在的知覚と運動反応に関して、逆向マスキング下の反応時間と事象関連電位、偏側性運動準備電位から検討した。逆向マスキング下の反応時間課題では、感覚閾値付近の弱い刺激(prime)とその数十ミリ秒後に提示される強い刺激(mask)の2つの連続刺激を用い、それらに対してできるだけ早く反応するという単純反応時間課題を用いた。またprime刺激の検出率及び脳波事象関連電位を測定し、単純反応時間と脳内情報処理の時間関係を検討した。その結果、単純反応時間は逆向マスキング下ではprime刺激が顕在的には知覚されないにもかかわらず、prime刺激があるときの方がないとき(つまりmask刺激のみ)よりも反応が早く起こることが示された。またその短縮した単純反応時間は、刺激呈示から偏側性運動準備電位(S-LRP)立ち上がりまでの時間(対側性運動準備過程が始まるまでの時間)と相関性が高く、LRP立ち上がりから反応動作までの時間(運動準備過程に要する時間)とは関連性がなかった。この結果から、逆向マスキング下の反応時間短縮効果は、顕在化されないprime刺激によって知覚過程の活性化が生じ知覚情報処理時間が短縮したか、あるいはprime刺激の感覚入力が直接運動準備過程の情報処理を賦活させたか、これらのいずれかによって運動準備過程の早期化が起こったものと考えられた。事象関連電位からは、逆向マスキング下のprime刺激によりP100(1次視覚野付近の活動)は明確に生じたがP300(刺激の認知)にはprime刺激の影響は生じなかった。したがって、prime刺激は初期視覚過程の処理はなされているが認知処理は行われていないことが示された。本研究ではprimeの潜在知覚による反応時間短縮効果について、行動的指標に加え脳波事象関連電位からそれらの背景にある脳内情報処理過程を明らかにした。
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