研究概要 |
1倍体と2倍体生物で観察される突然変異の由来を明らかにするために1倍体生物として、大腸菌及びhaploid酵母を、2倍体生物の代表として、diploid酵母を対象とし,それぞれの株に,ミスマッチ修復遺伝子,組み換え修復遺伝子,損傷乗り越え複製酵素遺伝子の変異挿入株を作成した。大腸菌の場合,内在性tonB遺伝子を標的とすると,mutHSLミスマッチ系が無い場合正常株の30倍,polAミスマッチ系がない場合も30倍の変異頻度の上昇があり,両方が無いと200倍の上昇があった。この過程には,損傷乗り越え複製酵素は関与しない。即ち,大腸菌DNA複製酵素IIIはミスマッチ系が機能しない場合は,10^<-6>の頻度で誤りを生じ,ミスマッチ系が働いて,10^<-8>まで突然変異頻度を下げていることが明かとなった。次に,haploid酵母の場合野生株の突然変異頻度は1x10^<-6>で,組み換え遺伝子rad52の欠損は塩基置換変異が増えて5x10^<-6>となる。損傷乗り越え遺伝子rev3の変異は,0.4x10^<-6>へと変異頻度を下げるが,組み換え頻度は上昇させる。従って,自然DNA損傷があると,複製フォークが停止し,rad52経路に行けば組み換えによって修復し突然変異も低く,rev3経路が働くと突然変異が上昇する。即ち,自然突然変異は,自然塩基損傷による複製阻害の回避に依存して生じる。2倍体酵母の場合,塩基置換などが一方の染色体に1x10^<-6>の頻度で生じ,次に1x10^<-4>の頻度で組み換えなどを経て両方のアレルに変異が出来上がる,つまり10^<-10>の頻度で突然変異形質が出来上がる。2番目の過程にはrad52組み換え遺伝子が強く関わる。ところが,rad52遺伝子が欠損した場合,組み換えが強く抑えられるので,複製フォークが停止しても修復系路がrev3だけになり,そのままM期に進み,1x10^<-3>の頻度で染色体の異数性を導く。Rad52 rev3二重変異株の場合,複製フォーク停止を回避する術がないので,10^<-2>の頻度で染色体の異数性が観察される。
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